アメヨケル

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あれから15年が経った。 久々に同級生たちと会う機会があり、地元の懐かしい喫茶店で昔話に花を咲かせた。 同級生とは友人の定とサッカー部の原口。連絡先を知っていたのもこの二人だけ。途切れることなく続いた交友関係だった。 外は生憎の雨で、大粒の雨が喫茶店の窓を水玉模様に飾っていた。 妙に懐かしく思えた。雨たちは何かを思い出させようとしているかの様に、音を立てて何度も窓ガラスを叩いていた。 ずっと地元で暮らす定と原口から聞き覚えのある名前がいくつも出て来た。 いつも嫌味たっぷりだった湯浅は大学卒業後銀行マンになったらしい。惚れた同い年の子にうつつを抜かして離島に左遷されたそうだ。きっと年頃だったんだろう。 貧乏人の池崎は金融業で逆転人生を成したらしい。黒塗りのセダンを運転する姿を何度も目撃されていた。もうボロボロの上履きを借りる事など無いのだろう。むしろ今はお金を貸す側なのだから。 よく一緒に学校をサボってゲーセンで遊んだ成田はレゲエシンガーになった。今じゃイベントにも呼ばれ、その界隈では知る人ぞ知る存在なのだそう。ゲーセン通ってた頃は「レーサーになってアメリカ行く」て言ってたのに。毎度俺に負かされて「お前の方がうまいから辞めた」て言ってからはレゲエにハマった成田。手加減無しで負かしてやって正解だった。 中学時代の最初の友人、高城のその後は誰も知らなかった。だが、高二の夏に一度だけ、俺は高城とばったり再会した。お互い高校の制服は別。高城は俺の知らない顔ぶれに囲まれて、楽しげに歩いていた。きっと立ち直れたんだろう。 定は俺の思い出話を聞いて言った。 「人生てそんなもんだろ? すこーし長めの一期一会ってやつさ」 いつになくまともな言葉をくれた定だが、徐ろに鞄から国語の教科書を取り出した。懐かしい表紙で見覚えのある折り目があった。 定は俺に本を差し出すと「今更だけど、これ返すわ」と言った。 向かいに座っていた原口と俺は大笑いした。 「いや、お前さぁ。国語の教科書なんて今更必要ないから。記念にでも貰っとけよ」 「引っ越し作業してたら、偶然出て来てさ、しかも2冊。おかしいなぁ、て思ったら、傘原から借りてたの思い出して」 「借りパクしてたしてた! ホント助かったよ」と原口が手を叩きながら笑った。 「マジでお前ら俺が教科書いらない奴とでも思ってたのか? もう、テストの度に雨宮から借りたり一緒に使わせてもらったり、大変だったんだぞ?」 「そう。雨宮さん!」定が思い出したかのように言った。 「お前の事、好きだろうと思って、俺たちでくっ付けようとしてたんだぜ? だからわざとお前の机を物色して空っぽにしてさ」 「なんで?」 「だっていつも教科書借りてたろ? 向こうも嫌とは言わないし。何か2人で雨宿りしてたし。お似合いだと思ったのにさー。雨傘カップルを期待したのになー」 「教科書借りてたのはお前らが返さないからだろ。雨宿りは、傘を貸しただけだから」 「向こうはその気があったかもしれないぞ? ラクロス部の間でも俺らと同じ話をしてたらしいし」と原口が言った。 「何で知ってる?」 「俺の嫁ラクロス部だよ」と原口は知ってるだろ、と言わんばかりのツッコミを俺の肩に入れた。 「で、お前は雨宮さんをどう思ってたんだ?」 定が詰め寄って聞いて来た。 俺はあの時の雨宮さんの横顔を思い出した。唇を結ばせて、上目遣いで雨雲を見つめる雨宮さんの横顔を。 「まあ、有り寄りの有り、かな?」 「ほらやっぱりー。勿体ないなぁー青春を謳歌出来たのになー」と、原口と定が顔を見合わせて笑った。 「うるせぇよ」と俺は笑い混じりに言い返し、おもむろに窓に散らばる雨の滴を眺めた。 今日のような、やまない雨の日は、雨宮さんの後ろ姿を思い出す。校舎の玄関で雨がやむのを待っている雨宮さんを。
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