『おばさん』ではなくてよ

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「ただいまぁ~」  何処に寄るでも無く家路に着くと、高校生の娘の靴が脱ぎ散らかされていた。 「コラっ。あなた、女子力は何処へ置いて来たの?」 舌打ちしながら娘は『だって』を繰り返す。 だって、暑かったし。だって、荷物が超重かったし。 そんなことをうだうだ言いながらも、娘は靴を揃えに玄関へ向かった。そして、私とすれ違いざまに、良いリアクションをして見せる。 「あ、今日は美容院の日だったんだ。ママってば、まだまだいけるね」 「ふふ。まぁね。どう?『美魔女』っぽい?」 「うん、ポイ、ポイ。てか、いつもそうしてりゃ、いいじゃん?」 「無理無理。ママはギャップ萌えで十分なお年頃なの。あなたはこれから狩人なんだから、しっかりお洒落ガールになりなさいよね」 おやつのドーナツを頬張ろうとする娘にストップを掛ける。それは、小学生組の弟たち用のつもりで買っておいたものだ。 「うぇええ。いいじゃん!明日からで」 「駄目よ。あなた、ニキビが出来たって喚いてたよね?甘いもの食べると治んないわよ」 代わりに娘の前にせんべいを差し出すが、眉根を寄せて受け取らない。 「ご近所の人が言ってたわよぉ?近頃、娘さん綺麗になったわよねって。ママ鼻高だったんだから」 『嘘も方便』だけれど、綺麗の魔法はいとも容易い。 娘はすごすごとドーナツを手放した。 「それにそれ、想われニキビって言うのよ。昔からね」 私は懐かしい目を向けて、思春期ニキビと闘う娘にエールを送った。
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