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「……どっちから攻める?」
与一は窓から顔を引っ込めて恭に尋ねた。
「どっちでもいいぜ。お前に任せる」
そう返事をした恭が印を結んで短く呪を唱えると、どこからともなく三尾の狐が彼の膝の上に姿を現した。与一は恭に羨望の眼差しを向ける。
「ひゅー。さすが」
「……早く行こうぜ。夜明け前に片付けないと、怪異が起こらない可能性がある」
「分かってるよ。というかお前、あんなに渋ってたくせに、すげーやる気だな?」
「別に。俺は報酬が欲しいだけだよ。むしろお前の方がここに来てびびり始めてるんじゃねーのか?」
「び、びびってねーし!」
与一の声は明らかに上ずっていた。恭は「はあ」とため息をつく。
「お前さあ、陰陽師なのに妖怪を怖がっててどうすんだよ」
「なっ!? いや、それを言うならお前だって、いつも怨霊から逃げ回ってるじゃねーか!」
「俺が怨霊を避けてるのは怖いからじゃねーよ。下手に関わり合うとこっちのメンタルが参ってしまうからだ。普通の人がチンピラとの喧嘩を避けるのと変わらないよ」
「う、う、うるさい! み、右だ! 新道の方に行くぞ!」
「はいはい」
与一がアクセルをふかし、車は勢いよく坂を駆け上がり始めた。
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