第1章 狐坂の怪

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「……どっちから攻める?」  与一は窓から顔を引っ込めて恭に尋ねた。 「どっちでもいいぜ。お前に任せる」  そう返事をした恭が印を結んで短く(しゅ)を唱えると、どこからともなく三尾の狐が彼の膝の上に姿を現した。与一は恭に羨望の眼差しを向ける。 「ひゅー。さすが」 「……早く行こうぜ。夜明け前に片付けないと、怪異が起こらない可能性がある」 「分かってるよ。というかお前、あんなに渋ってたくせに、すげーやる気だな?」 「別に。俺は報酬が欲しいだけだよ。むしろお前の方がここに来てびびり始めてるんじゃねーのか?」 「び、びびってねーし!」  与一の声は明らかに上ずっていた。恭は「はあ」とため息をつく。 「お前さあ、陰陽師なのに妖怪を怖がっててどうすんだよ」 「なっ!? いや、それを言うならお前だって、いつも怨霊から逃げ回ってるじゃねーか!」 「俺が怨霊を避けてるのは怖いからじゃねーよ。下手に関わり合うとこっちのメンタルが参ってしまうからだ。普通の人がチンピラとの喧嘩を避けるのと変わらないよ」 「う、う、うるさい! み、右だ! 新道の方に行くぞ!」 「はいはい」  与一がアクセルをふかし、車は勢いよく坂を駆け上がり始めた。
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