194人が本棚に入れています
本棚に追加
道路がだんだんと高くなり、右手に広がるのは市街地の夜景である。
高架橋の先は左に緩やかなカーブを描き、鬱蒼とした林間に埋もれていた。
「待て。スピードを落としてくれ。妖気が強まってきた」
「え? そうか?」
恭が険しい表情で言うと、与一は驚いた様子で周囲をきょろきょろと見回した。
その時である。
「うわあああ!」
カーブの陰から大型トラックが姿を現し、与一は悲鳴を上げた。トラックはどう見てもこちらの車線を走ってきている。逆走車だ。
「ぶ、ぶつかる!」
「落ち着け!」
パニックになって急ハンドルを切る与一の手を押さえ、恭は右足を伸ばして思い切りブレーキを踏んだ。
「なんで!?」
「よく見ろ!」
恭は迫りくるトラックを睨みつけて叫んだ。衝突する寸前で、トラックは夜闇に溶けるようにフッと霧散する。
「ま、幻……?」
「ああ」
恭は短く答えると、ドアを開けて路上へと飛び出し、すぐさまトラックがやって来た方に視線を走らせた。そこには一匹の狐が怪しげに目を光らせて座り、こちらを見つめている。狐は踵を返すと高架橋からふわりと身を躍らせ、音もなく森の中に消えた。
「何だあれ……。妖狐?」
「……『野狐』だな。尻尾が一本だったから、死んで間もない狐の霊だろう。妖狐は妖狐でも、俺の式神とは種類が違う」
最初のコメントを投稿しよう!