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「そうなのか……。あー、怖かった。まだ心臓がバクバクしてる」
与一はハンドルを握ったまま震え声を漏らした。
「危なかったな。もう少しで高架橋から飛び出すところだったぞ」
恭はボンネットを指先でコンコンと叩いて言った。今や車は完全に反対車線に入り、ガードレールの一歩手前で止まっていたのだ。
「とりあえず対向車が来る前にここから離れよう。このままじゃ危険だ」
恭は車に乗り込んで与一に声をかけた。与一は青ざめた顔でぎこちなく頷く。
――狐坂を上り切り、宝ヶ池トンネル前の直線道路に入ってから、二人は車を路肩に止めてやっと息をついた。
「怪異の原因は狐の霊だったのか……。意外だったな。こんなところに狐がいるなんて」
与一はぐったりと背もたれに身を沈めながら呟いた。出かける前の威勢はどこへやらである。
「野生動物は俺たちが思っているより身近にいるもんだよ」
「へえ……。そういえば恭は動物好きだったな」
「ああ。動物たちは純粋だからな。癒し効果がある」
「でも、さっきの奴は俺たちを殺そうとしてきたぞ?」
与一は眉間に皺を寄せて不満げに言い返した。
「そうだな……。でも、あいつからは怨念が一切感じられなかった。きっと俺たちを襲った理由があるはずだ」
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