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「へーん、そうかい。怨念があるかどうかなんて、俺には全く分かんなかったけど」
与一は唇を尖らせてブツブツと呟く。恭は苦笑した。
「そんなことは分からない方がいいんだよ。――それじゃあ俺は、歩行者・自転車道から狐の霊の後を追ってみるぜ」
「ちょ、ちょっと待て! どうしたんだ恭、今回はずいぶんと積極的だな!?」
懐中電灯を手に早くもドアを開けようとする恭を、与一が慌てて呼び止めた。
「ん? ああ。あの狐が少し気にかかってね。さっき去り際に、あいつに呼ばれたような気がしたんだ」
「妖狐が恭を呼んだって? そんな馬鹿な」
「ともかく俺はそう感じたんだよ。長年妖狐と接してきた経験があるからな」
恭は肩にのった三尾の狐にちらりと目を向けながら言う。
「うーん……。そりゃあ、恭ほど妖狐の扱いに慣れた奴はそうそういないと思うけどさー。でも、あの狐は危険だぜ? あんまり深追いしすぎるとやばいんじゃないのか?」
「お? どうした? 怖いのか?」
「こ、怖くねーよ!」
恭がニヤニヤと笑いながら車から出ると、ムキになった与一も彼の後を追って外に飛び出して来た。
「よし。じゃあ行くぞ。他の怨霊に邪魔されないように護符を出しておけ」
「お、おう……」
そうして二人は五芒星が描かれた短冊を手に、車道の脇の小道へと足を踏み入れたのだった。
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