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一息で言い放った。稲荷狐たちの顔に驚きの色が浮かぶ。恭は少し心が痛むのを感じたが、彼の強固な決意はそんなものでは揺るがなかった。
「そうか……。恭殿がそれを自分の使命だと考えているのなら、それこそが、恭殿の転狐としてのお役目なのじゃろうて……」
祖父は少し寂しそうな笑みをこぼして言った。
「すみません……。でも、みなさんにお会いしたお陰で、私はすごく救われた気がします」
恭は膝に手を当ててゆっくりと立ち上がった。稲荷狐の家族を順番に眺め、二度と会えないであろう彼らの姿を脳裏に焼き付けようとする。
「短い間でしたが、お話しできて嬉しかったです」
軽く一礼した。
「ああ。こちらこそ……」
「元気でね! 健康には気を付けて!」
「頑張れよ!」
「立派な転狐になるんじゃよ!」
皆が口々に声をかけてくれる。すると見る間に辺りが白い霧に覆われ、彼らの姿は霞の向こうに消えていった。
「さよなら……」
感傷に浸って呟く。と、次の瞬間、
「さあ、現世に戻ろう!」
三尾が尻尾を振り、恭の腕に飛びついてきた。
「あれっ? お前はこれからも俺についてくるのか?」
恭は驚いて振り返る。三尾は恭を見上げてフンと鼻を鳴らした。
「当然! 私がいなくなったら、兄様は陰陽師のお仕事ができないでしょ? 今後も呼び出されたら何時でも現世に行くよ! あっちでは狐の姿になっちゃうけどね」
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