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自転車・歩行者道は車道とは全く雰囲気が違った。
まず、とにかく薄暗い。道の両側に木々が迫り、梢が時折ざわざわと音を立てている。道は舗装されていて歩きやすいのだが、斜面はかなり急である。ここを自転車で上がるのは相当しんどいはずだ。
少し下ると、二人の前に件のヘアピンカーブが現れた。
「ああ。これは確かに事故が起こっても不思議じゃないなあ……」
恭は思わず呟いた。坂道でスピードのついた車がここを曲がるのは簡単ではなかっただろう。
「――で、俺たちが事故りかけた場所はちょうどあの辺りか」
振り返って高架橋を見上げる。下から仰ぐと思っていた以上に高く感じられた。
あそこから森に向かって飛んだとすると、妖狐は自分たちが今いる場所の近くに降り立ったのかもしれないな……。もっとも、霊体に物理法則は適用されないため、必ずしも放物線を描いて落ちてきたとは限らないが……。
「うわ、蚊がめっちゃいる。虫よけスプレー持って来れば良かった」
与一の悲痛な声が恭の耳朶を打つ。振り返ると、与一は奇妙な踊りでも踊っているかのように必死に手足をばたつかせていた。小鬼も張り切って主人に群がる蚊を叩き落とそうとしているが、その手には実体がないのでもちろん効果はない。恭は呆れ顔になった。
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