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「そっか。ありがとな」
恭はふっと笑みを浮かべた。次の瞬間には三尾の笑顔も白い霧に沈む。視界が真っ白になり、ついに何も見えなくなった時――
*
恭は目を覚ました。
「うわっ。起きた!」
与一が驚いた声を発して飛び上がる。仰向けに寝かされた体勢の恭が身を起こすと、膝の上に三尾の狐が丸まっているのが彼の目に入った。
三尾の狐は耳をぴくっと動かしてから、顔を上げて大きな欠伸をする。
ここは――稲荷山のお塚か。
見覚えのある光景に、恭は自分と三尾が無事に現世に戻ってきたことを悟った。
「具合はどう?」
美鵺子が心配そうに顔をのぞき込んでくる。恭はハッとして、自分の胸に手を当てた。
「不思議だ……。体が治っている……」
「良かった。きっと異界に入って魂が浄化されたんやね」
美鵺子は安堵した表情になった。
「え? い、異界!?」
与一は理解が追いついていない様子である。恭は三尾の狐をつついて足の上から退かせると、立ち上がってズボンについた塵を両手ではたいた。
「……美鵺子は知ってたんだな。俺が転狐ってこと」
恭の問いかけに、美鵺子は申し訳なさそうに「うん」と頷いた。
「知ってたけど、恭のところに異界からお迎えが来るまでは言わへん方がいいと思って、黙ってた……」
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