第9章 犬神の怪 後編

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「そっか。それもあの妖刀の記憶を見て知ったの?」 「うん。この妖刀は、歴代の転狐が受け継いできた特別な武器やってん。だから、恭の正体が転狐やって気がつくのに時間はかからへんかったよ」 「なるほど。転狐が継承してきた妖刀だったのか。それで俺が正当な所有者だって言ってたんだな」  恭はポンと手を打った。やっと点と点が繋がり、全体像が見えてきた。 「そう。この妖刀は、平安時代に天皇の勅命を受けた刀鍛冶が転狐と二人で協力して作った名刀『小狐丸』の片割れ――。小狐丸に蓄積された残留思念が本体から独立して妖怪化した、いわば『小狐丸の影』やねん。歴史上に小狐丸が何本も登場して記録が混乱してるのは、この『影』が本物と同時に存在してた期間が長かったからみたい。現在、本物の方は失われてしまっているらしいけれど……」  そう言って、美鵺子は件の妖刀を虚空から取り出した。 「小狐丸の影……。か」  恭は目を細めて、陽炎のように揺らぐ刀身に視線を走らせる。 「うん。先代転狐が亡くなってから百年近く稲荷山に放置されていたせいで、今はこんなにボロボロになっちゃってるけどね……。でも、これは転狐に作られた妖刀やから、転狐の手に戻れば妖力を取り戻すはず……」
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