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美鵺子はそこで言葉を切り、何かを問いかけるような目で恭を見つめた。
その瞳を見返して、恭はハッと気がつく。
そうか。美鵺子は俺が一人前の転狐になれるように、ずっとサポートしてくれていたのか。――俺が現世に適応できるように。異界に帰ってしまわないように……。
恭はふっと口元を緩め、そして、静かに両手を前に差し出した。
「大丈夫。俺はこれからも、この世界で美鵺子たちと一緒に生きていくことに決めた。俺はもう一人前の転狐だ」
「ほんと?」
美鵺子の目が潤む。慌てて顔を逸らしてから、照れたように笑って恭に向き直った。妖刀をうやうやしく持ち上げ、恭の手の上に載せる。
「ありがとう。現世を選んでくれて。……おかえり」
刹那、ぱっ――と、妖刀が眩い光を放った。
「おおっ!?」
与一が驚いて片手で目を覆う。恭は思わず瞼を閉じてから、おそるおそる目を開いて自分の手の中を見た。
息を呑んだ。なんと、そこには研いだばかりのような美しい輝きを放つ妖刀の姿があったのである。
「刀が……生まれ変わった……」
与一が信じられないという表情で呟いた。恭は実体のない妖刀の柄を握り、ふわりと刃を天に掲げる。
「刀も恭を転狐やと認めてくれたみたいやね」
美鵺子が微笑んだ。
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