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――が、ちょうどその時である。
突然道の方からいくつもの悲鳴が上がり、恭たちは何事かと辺りを見回した。
「しまった! もう日没だ! 犬神が来るぞ!」
与一が顔色を変えて叫ぶ。恭は妖刀を手に、慌ててお塚から飛び出した。
ほの暗い坂の下から観光客をなぎ倒さんばかりの勢いで駆けあがってくるどす黒い影を見て、恭は目を疑った。
何ということだ……。大きさが昨夜の犬神とは桁違いである。
その体躯は中型トラック並。真っ赤に燃える目はバスケットボールのよう……。
『おのれ小僧! お前だけは何としてもここで始末する!!』
犬神が捨道の声で吠えた。
凄まじい怨念の圧で、恭の全身がビリビリと震える。
恭は三尾の狐がお塚の奥に逃げ込むのを視界の端に捉えた。
そうか。俺も中身が妖狐だということは、犬神は天敵なのか。――だが、この妖刀を手にした今、犬神にとっても俺が脅威であることに変わりはない。だからこそ、捨道は全ての犬神をここに集結させて、俺を討とうとしているのだろう。
互いに相手の弱点を握り合った今、戦えばどちらか片方しか生き残ることはできない。これは俺の命を懸けた決闘になる――。
そう覚悟した瞬間、妖刀から熱いものが体に流れ込み、彼の中からすっと恐怖が消えた。恭は妖刀を上段に構えて裂帛の気合いを発する。
犬神が後足で地面を蹴り、恭めがけて飛びかかった。
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