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が、次の瞬間、驚くべきことが起こった。
犬神の四方八方から純白の稲荷狐が飛び出し、黒い巨体に噛みついたのである。その中には三尾の姿もあった。
犬神は予想外の急襲に空中でバランスを崩し、無防備な体勢で恭の目の前に落ちてくる――。
「イヤアアアアッ!!」
妖刀が閃いた。
犬神が地面に着地した時、その体は見事に両断されていた。稲荷狐たちはあっという間に散り散りになって姿を消す。
『やっと……わしの時代が来たと思うたのによ……』
犬神は悔しそうに呻き、溶けるように夜の闇に霧散した。
恭が腕を下ろし、妖刀はふっと姿を消す。
「やった……」
美鵺子がふらふらとした足取りで恭に歩み寄り、その背中にしがみついた。
「全く……。お前って奴は……」
与一は青ざめた顔で鳥居の陰から這い出てくる。どうやら、こちらはずっと隠れていたらしい。
観光客たちはいつの間にか皆どこかに逃げてしまって、その場にいるのは三人だけになっていた。
「とりあえず、これで一件……落着……かな?」
恭はかすれた声で呟く。しかし、言い終えた途端、恭は糸が切れたかのように地面の上に崩れ落ちてしまった。
「恭!? 大丈夫!?」
美鵺子が慌てて恭の顔をのぞき込み、与一は急いで恭のもとに駆け寄る。
「いや……ごめん。気が抜けたら、急にダメージが来た……。悪いけど、助け起こしてもらってもいい……?」
恭は二人を見返して、申し訳なさそうに、へらっと情けない笑みを浮かべたのであった。
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