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エピローグ 新たな門出
秋の終わりのある日のことである。
「おーい。恭ー? 起きてるー?」
ドアの外から聞こえる与一の声。
やれやれ。またあいつか……。
机に座って動画を見ていた恭は片耳からイヤホンを外し、一瞬考えたあと、再びイヤホンを耳に押し込んだ。
『こら! 無視するな! いるんだろ? 狐ちゃんの妖気が隠しきれていないんだよ!』
今度は恭の携帯端末がメッセージを受信すると同時に、玄関チャイムが高らかに鳴り響いた。
恭は膝の上で寝ていた三尾の狐に目を落とし、「しまった」と舌を出す。寝ぼけまなこで見上げてきた妖狐に、恭は人差し指を口に当てて無言で合図した。
三尾の狐は声を出さずに口を開けて返事し、フッと姿を消す。
『おい! いまさら狐ちゃんを隠しても遅いぞ!』
『良い知らせを持ってきてやったんだから開けろ!』
二回の着信音と共に、携帯端末にメッセージが表示される。それも無視していると、玄関チャイムの連打が始まった。これには流石の恭もたまらず、玄関に突進してドアを押し開ける。
「お前、いきなり訪ねてくるのはやめろって、何度も言ってるだろ!」
恭が声を荒げて言うと、与一は気の抜けた笑顔で「ちーっす」と手を上げた。
「聞いてくれよ、恭。ニュースニュース」
いつものように遠慮なく部屋に上がり込んでくる。
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