197人が本棚に入れています
本棚に追加
「何やってんだ。行くぞ。狐はおそらくここから森に入って行ったはずだ」
「えーっ!? 道を外れて森に分け入るのか!? 嫌だよ!」
「三尾、先導を頼む」
「人の話聞いてるか!?」
恭は与一に構わず、三尾の狐についてずんずんと暗い森の中に入って行く。
「全く……。ひきこもりのくせに、妙なところだけ行動的なんだよなあ」
与一はぶつくさと文句を口にしつつ恭の後を追った。
恭の指示を受けた三尾の狐は、時折地面を嗅ぎながら木立の中を迷いなく進む。恭は油断なく懐中電灯で周囲を照らしながら、しっとりと湿った腐葉土を踏みしめて歩いた。
明かりに驚いて時折羽虫が舞う。途中で後ろから「蜘蛛の巣に引っかかった!」と騒ぐ声が聞こえたが、恭は無視した。
――やがて三尾の狐は歩調を緩め、しきりに耳を動かして辺りを探索し始める。
「この近くか……。確かに妖気が強くなっている」
「左様ですか。俺にはぜんっぜん分かんねーけど」
追いついた与一の言葉には不機嫌さが滲んでいた。恭は構わず斜面に光を当て、何か手掛かりになりそうなものがないかを探す。その時――
「あれだ!」
「ん?」
恭が指さした先に与一が目を向ける。そこには地面にぽっかりと空いた丸い穴があった。
最初のコメントを投稿しよう!