197人が本棚に入れています
本棚に追加
「『ちーっす』じゃねえ! 何しに来たんだよ!?」
「まあまあ。そう邪険にせずに、とりあえず中に入れてくれよ。ほら、お前が好きな大学購買部のみたらし団子買ってきてやったんだぜ?」
ドアの前に立つ金髪でいかにも遊び人といった風体の男は、小さなレジ袋を恭の目の前にぶら下げてニヤリと笑った。
この男、名前を賀茂与一という。恭と同学年だったのだが一昨年留年し、まだ大学生活を続けているのであった。
「別に好きだったわけじゃない。値段の割に腹持ちがいいからいつも選んでただけだよ」
「素直じゃねえなあ。ありがたくもらっておけよ」
「いや、遠慮するよ。お前の好意には絶対に裏があるからな」
「まあまあ、そう言わずにさ。どうせ腹減ってんだろ?」
与一はレジ袋を恭に押し付けると、反射的にそれを受け取った恭の脇をすり抜けて、まんまと部屋に押し入った。
「おっ、狐ちゃん、元気ー?」
与一は早速靴を脱ぎ捨てて上がり込み、部屋の奥に向かって声をかけている。恭はため息をつきながらドアを後ろ手に閉めた。
「おい、与一、やめとけ。噛まれるぞ」
何もない空間に向かって手を伸ばしている与一に、恭が呆れた口調で注意する。
二人がその場所に見ているのは、三本の尾を持った白い狐の姿であった。彼らは普通の人には見えないものが見える。言うなれば、現代に生きる陰陽師なのである。
最初のコメントを投稿しよう!