プロローグ 安アパートの陰陽師

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「『ちーっす』じゃねえ! 何しに来たんだよ!?」 「まあまあ。そう邪険にせずに、とりあえず中に入れてくれよ。ほら、お前が好きな大学購買部のみたらし団子買ってきてやったんだぜ?」  ドアの前に立つ金髪でいかにも遊び人といった風体の男は、小さなレジ袋を恭の目の前にぶら下げてニヤリと笑った。  この男、名前を賀茂与一(かものよいち)という。恭と同学年だったのだが一昨年留年し、まだ大学生活を続けているのであった。 「別に好きだったわけじゃない。値段の割に腹持ちがいいからいつも選んでただけだよ」 「素直じゃねえなあ。ありがたくもらっておけよ」 「いや、遠慮するよ。お前の好意には絶対に裏があるからな」 「まあまあ、そう言わずにさ。どうせ腹減ってんだろ?」  与一はレジ袋を恭に押し付けると、反射的にそれを受け取った恭の脇をすり抜けて、まんまと部屋に押し入った。 「おっ、狐ちゃん、元気ー?」  与一は早速靴を脱ぎ捨てて上がり込み、部屋の奥に向かって声をかけている。恭はため息をつきながらドアを後ろ手に閉めた。 「おい、与一、やめとけ。噛まれるぞ」  何もない空間に向かって手を伸ばしている与一に、恭が呆れた口調で注意する。  二人がその場所に見ているのは、三本の尾を持った白い狐の姿であった。彼らは普通の人には見えないものが見える。言うなれば、現代に生きる陰陽師なのである。
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