プロローグ 安アパートの陰陽師

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 与一は同情に満ちた表情になった。 「でもさ、職場に気に食わない奴は一人くらいいるもんだろ? ちょっとは我慢しないとやっていけないぜ?」 「……それができれば苦労はしないんだよ」  恭は力なく首を横に振る。与一はやれやれと天井を仰ぎ見て呟いた。 「そうか、『霊能のパラドックス』ってやつか……」  「霊能のパラドックス」――これは近年、陰陽道が心理学を取り入れて生まれた新しい概念だった。  基本的に陰陽師は霊能力が高いほど、強力な式神を使役することができる。しかし一方で、霊能力が高い人間は感受性が強くなりすぎ、メンタルが脆弱になってしまう傾向があるのだ。それが原因で社会生活に支障が出る場合も少なくない。 「陰と陽、物事の両面を引き受けてこその陰陽師だとはいえ、現代は俺にとっちゃストレスが多くて生きづらい世の中だよ」  恭は肩を落として言った。 「まあ、確かに俺たちみたいな特異体質はなかなか社会から理解を得られないからなあ。おまけに妖怪祓いの依頼が年々少なくなっているせいで、専業陰陽師だと食べていけない時代だし。……おっと、そうだ、忘れてた」 「ん? どうした?」  おもむろに与一がポケットから携帯端末を取り出したので、恭は首を伸ばして画面をのぞき込んだ。
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