第一章、ことのはじめ

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「知っとー? クローン羊のお話」  肩にかかる長さまで切り揃えた猫っ毛を揺らして、若々しい女医先生は診察室のチェアに深く腰かける。白衣の下に纏う縦編みセーターとタイトスカートが、起伏に富んだスタイルをこれでもかと強調している。 「乳腺の細胞で作られたから名前はドリー。  乳腺ってわかる? ママがおっぱい出すところよ。だから有名な巨乳の歌手さんの名前つけたんやって」  話し相手に飢えたお婆ちゃんみたく饒舌な女医と、向かい合って座る写楽 能人(しゃらく・のうと)は内心で辟易していた。 「おっぱい、ですか」  まったくツイてない。パーフェクトなまでに。  自宅の床に転がっていたシャーペンを踏んづけて、足裏にケガを負ったことが彼の不幸の始まりである。
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