プロローグ

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ

プロローグ

 桜の季節の日本は最高だ、と達哉は思っていた。とはいえ、桜をしみじみ鑑賞するのは、これが初めてだが。  ソメイヨシノというの、と真琴は言っていた。ヨーロッパではアーモンドの花と間違う人もいるみたい。  それを聞く前の達哉には、ソメイヨシノもアーモンドも、さして違いはなかった。「花」である。春先に咲く白やピンクの花。そして散る。  足もとに咲くのは、黄色いタンポポである。それとシロツメクサという、クローバー。四葉だと幸運だと言ってみんながありがたがる。そのせいで、四葉を人工的に作り出し、その鉢植えが花屋に並ぶ。  憂鬱になりそうなほど、ぬるい風が肌をなでる。空は抜けるような青空である。  東京でミーティングを一つ終えたあとの移動中、達哉は頭上に銀色に光る飛行機を見つけてめまいを感じる。その一ミリ足らずの飛行機が方向転換して自分の方に向かってくる幻を見る。幻なのはわかっている。  ただ、耳をつんざく轟音と爆撃の光はリアルに再現され、達哉は目を閉じ、深く息をついた。  あの白いのはオオヤマザクラ。  彼女の弾むような声が重なって、達哉は戦闘機を迎撃するのを免れた。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!