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同じゼミの女の子、「皐月原めぐむ」には、二つの噂が付きまとっていた。
一つ目の噂は、男にまつわるもの。
彼女は二年前に、高校時代から付き合っていた年上の彼氏に手ひどく振られたらしい。なんでも、彼氏がヤクザ者の愛人とデキてしまって、駆け落ちしてしまったんだとか。
二つ目の噂は……やはり男、しかも同じ彼氏にまつわるものだ。
なんでも、彼女は自分を捨てた彼氏を浮気相手の女共々殺してしまって、どこかの山奥に埋めてしまったんだとか。
二つ目の噂は、誰かが流した無責任な風評だ。ナンセンス過ぎて、彼女もその周りの人間も、殆ど気にしていない。
――けれども一つ目の噂は、どうやら本当らしいのだ。
そのせいなのか、皐月原さんは笑顔が素敵な女の子なのに、その笑みにはどこか陰があった。
特に雨の日には、どこか遠くの方をぼんやりと見つめて、物憂げな表情を浮かべていることが多かった。彼氏が彼女の前から消えたのも、雨の日だったのだとか。
――いつしか僕は、そんな彼女の佇まいに心を奪われている自分に気付いた。
我ながら厄介な相手を好きになってしまったと、呆れるばかりだ。でも、それが恋というものなのだから、仕方がないだろう。
同じゼミというだけで、僕と彼女の間に接点は少ない。
だから、僕は彼女との距離をいつまで経っても詰められずにいた……のだけれども、転機は意外な形でやってきた。
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