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翌日。僕は皐月原さんに付き添って、大学から遠く離れた、とある警察署を訪れていた。
鉛のように重たい空からは、今日もしとしとと雨が降り続けている。
「……大丈夫?」
「うん、平気。ありがとう、秋月くん。きっと、一人だったらここまで来れなかったわ。――行きましょう」
梅雨空よりもなお曇った表情を見せる皐月原さん。でも、彼女は気丈に頷いて見せて、警察署への一歩を踏み出した。
中に待っているのは、何を隠そう皐月原さんの元彼その人だ。
僕も汗がにじみ始めた手をしっかりと握りしめ、皐月原さんの後を追う。
そのまま、あれやこれやと受付を済ませ通されたのは、警察署の奥にある、手術室を思わせる薄暗い部屋だった。
独特の――とても不快な匂いが漂っている。
部屋の中央には、手術台にも似た横長の台が鎮座していて、白い布がかけられていた。布は少し膨らんでいて、その下に何かが隠されていることは明白だった。
「――では、皐月原さん。よろしいですね?」
「はい……お願いします」
刑事さん(初めて見た)が皐月原さんに確認してから、台の上の布を取り払う。
そこに現れたのは――。
「――っ」
皐月原さんが息をのむ。僕も目の前のものに釘付けになり、呼吸が止まる。
そこに現れたのは……人間の骨だった。薄汚れた茶色に変色した、全身骨格が横になっていたのだ。
「こちらが遺留品になります。ご確認をお願いします」
刑事さんが、部屋の奥からガラガラとワゴンを押してくる。
その上には、ボロボロになったジーンズやアロハシャツ、ライターや財布等が置かれていた。古い型の携帯電話らしきものもある。
皐月原さんは骸骨からそちらへ目を移し、ひとしきり眺めると――静かに口を開いた。
「はい、彼のもので間違いないと思います」
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