キレイになるまで、待っていて。

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「“砂上(さじょう)楼閣(ろうかく)”って言葉、知ってるか?」 百人のうち九十九人が「優しそう」と評する柔和(にゅうわ)な顔立ちに見事な青筋(あおすじ)を浮かべて、夏凪(なつな)千絃(ちづる)(すご)む。 男性ではめずらしい美容部員かつ、その整った容姿とやわらかな物腰から、“コスメの王子様”と呼ばれている千絃(ちづる)。 ──もちろん、である。 “男性目線でコスメやメイクを、より説得力を持ってお客様に提案できる”という下心満載の上層部の人事により、千絃(ちづる)は日々、このコスメカウンターに立っている。しかしながら、“キレイになりたい”という女性たちの願いを叶えるこの仕事を、彼は天職だと思っている。 思っている。思っているのだが……。 閉店間際の百貨店のコスメカウンターで、慣れた様子でハイチェアに腰掛けているのは、幼馴染の八月朔日(ほづみ)向葵(ひなた)だ。
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