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同窓会の会場は、すすきのにある小さなダイニングバーだった。
俺は法学部の法律学科出身で──大学のときに学んだ知識は、現在はほぼ生かされていないが──、今日は学科のメンバーでの同窓会なので、見知った顔ばかりがそこらを行き交っている。
「ごめん、遅くなっちゃって」
会が始まって30分ほど経ったころ、入口のベルの音と同時にハスキーボイスが響き渡った。
「葉月!なあに、もしかして今日も仕事?」
「うん。休日出勤してたら、取引先から連絡が入って」
「相変わらずだね。さすが、仕事に生きる女」
幹事の香奈子──元気で明るくて、大学時代からみんなのまとめ役だった──が、葉月に向かって「はい、駆けつけ一杯」とビールジョッキを差し出す。
「もう、香奈子は容赦ないなあ」
葉月は苦笑いしてから、差し出されたそれを一気に半分以上飲むと、ジョッキをドンと勢いよくテーブルに置いた。
栗色のショートカットに白いサマーニット、グレーのタイトスカートに黒いヒール付きのパンプス。
いかにも「キャリアウーマン」といった出で立ちだが、顔を見ると昔とそう変わらない。勝ち気そうに光るキリッとした目も、高い鼻も、薄い唇も。
「まあ、相変わらず美人だな。スタイルも変わらないし」
「ああいう女は、遠巻きに見るのが一番いいんだよ。一緒に生活できそうにないだろ」
「違いない」
「やめろよ、聞こえたらどうするんだよ」
ひそひそ話す3人を窘めてちょびちょびビールを飲んでいると、活発なヒールの音が近づいてくる。そして、俺の目の前で止まった。
「侑一くん、久しぶり。元気にしてた?」
ヒールを履いているせいもあるが、身長は俺とほぼ変わらない。そういえば昔から高いヒールを好んでいたな、と遠い記憶が戻ってくる。
「ああ、久しぶり。元気そうだな」
そう返すと、「ほんとにそう思う?」と茶目っ気を含ませたような顔で葉月が笑った。
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