#2 同窓会(Side 侑一)

4/6
前へ
/194ページ
次へ
 同窓会の会場は、すすきのにある小さなダイニングバーだった。  俺は法学部の法律学科出身で──大学のときに学んだ知識は、現在はほぼ生かされていないが──、今日は学科のメンバーでの同窓会なので、見知った顔ばかりがそこらを行き交っている。 「ごめん、遅くなっちゃって」  会が始まって30分ほど経ったころ、入口のベルの音と同時にハスキーボイスが響き渡った。 「葉月(はづき)!なあに、もしかして今日も仕事?」 「うん。休日出勤してたら、取引先から連絡が入って」 「相変わらずだね。さすが、仕事に生きる女」  幹事の香奈子(かなこ)──元気で明るくて、大学時代からみんなのまとめ役だった──が、葉月に向かって「はい、駆けつけ一杯」とビールジョッキを差し出す。 「もう、香奈子は容赦ないなあ」  葉月は苦笑いしてから、差し出されたそれを一気に半分以上飲むと、ジョッキをドンと勢いよくテーブルに置いた。  栗色のショートカットに白いサマーニット、グレーのタイトスカートに黒いヒール付きのパンプス。 いかにも「キャリアウーマン」といった出で立ちだが、顔を見ると昔とそう変わらない。勝ち気そうに光るキリッとした目も、高い鼻も、薄い唇も。 「まあ、相変わらず美人だな。スタイルも変わらないし」 「ああいう女は、遠巻きに見るのが一番いいんだよ。一緒に生活できそうにないだろ」 「違いない」 「やめろよ、聞こえたらどうするんだよ」  ひそひそ話す3人を(たしな)めてちょびちょびビールを飲んでいると、活発なヒールの音が近づいてくる。そして、俺の目の前で止まった。 「侑一(ゆういち)くん、久しぶり。元気にしてた?」  ヒールを履いているせいもあるが、身長は俺とほぼ変わらない。そういえば昔から高いヒールを好んでいたな、と遠い記憶が戻ってくる。 「ああ、久しぶり。元気そうだな」  そう返すと、「ほんとにそう思う?」と茶目っ気を含ませたような顔で葉月(はづき)が笑った。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8669人が本棚に入れています
本棚に追加