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#3 新生活に向けて
「俺って、そんなにわかりやすいかなあ」
約束の日曜日、不動産屋さんからの帰りの車の中で、侑一さんがぽつりと呟いた。
無事に新居が決まり、引越しは3週間後になった。必要な家具や家電は来週見に行こう、ということになっている。
──とうとう、侑一さんと一緒に暮らせるんだ。
実感が湧かないけれど、毎日一緒に寝て起きて、ご飯を食べて、お酒を飲んだり他愛もないお喋りをしたり……。そんな日々がすぐそこまで近づいてきているのだと思うと、わくわくする気持ちが止まらない。
「わかりやすいって、なにがですか?」
「同窓会のとき、友達に言われたんだよね。彼女のこと考えてニヤニヤするなって。そういえば、川田にも香坂にも同じことを言われたな」
「お友達に、わたしの話、したんですか?」
「うん。彼女いないのかって訊かれたから、結婚するよって」
そう言って微笑む侑一さんの横顔にドキッとして、慌ててスマホの画面に視線を移した。友達にもはっきり「結婚する」って言ってくれたなんて──嬉しくて、くすぐったいな。
「写真見せろってうるさいから仕方なく見せたら、可愛いってみんな騒いでたよ」
「そんな、恥ずかしいです」
「俺の彼女はやっぱり、どこの誰から見ても可愛いんだなあって思ったら……少し、嫉妬しちゃった」
車はマンションの駐車場に入り、所定の駐車場所に停まった。エンジンが停止すると、途端に静寂が訪れる。
「きっとお世辞ですよ。全然、そんなことないですから」
「いや、お世辞なんか言う連中じゃない。可愛いって言われるのがわかってたから、見せたくなかったのに」
侑一さんがこちらに腕を伸ばしてきて、わたしをぎゅっと抱き寄せた。いつもの柔軟剤の香りが鼻腔をくすぐって、安心とときめきが同時にやってくる。
──この柔軟剤は、一緒に暮らし始めても変えたくないな。でも……それって、わたしも同じ匂いを纏うっていうことだよね。なんだか、すごく嬉しいかも。
「あとで紗友里の話も聞かせてね。同期会、楽しかったんでしょ?」
そう言いながら、彼がわたしの髪にふわりとキスを落とす。同期会の帰り道のことを思い出して、「はい」と返す声が少し上擦ってしまった。
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