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「えっ……あの、そんなことは」
「謙遜しなくていいって。入庁したとき、男連中で盛り上がってたんだよ。あの子可愛い、って」
でも、彼氏がいることがわかってみんながっかりしたんだよね。椎名さんの口調はいつもと同じく穏やかで、それが本気なのか冗談なのかを読み取ることができない。
「紗友里ちゃんって、まだ22歳だよね」
「はい。早生まれなんです」
「そんなに若いのに、もう決めちゃっていいの?後悔しない?」
再び足を止めると、椎名さんが「あれ、また止まっちゃったの?」とにこやかに言った。わたしの腕を優しく掴んで、「駅、もう少しだから、頑張って歩こう」と続ける。
「後悔なんて、絶対にしないです。わたし、彼氏のこと……大好き、なので」
腕をそっと振りほどいて、彼の顔を見上げながらそう返した。──侑一さんのことを「彼氏」なんて呼び方をしたの、もしかしたら初めてかもしれない。
慣れない響きに恥ずかしくなって唇を噛むと、「紗友里ちゃんって、本当に可愛いよね」と椎名さんが笑う。
「もったいないなあ。そんなに歳上の人に持ってかれちゃうなんて」
「そんなことないです。むしろわたしのほうが、その、彼氏……に釣り合わないんじゃないかって思うことがあって」
「それはないでしょ。どれだけイケメンなの、紗友里ちゃんの彼氏」
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