#3 新生活に向けて

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「えっ……あの、そんなことは」 「謙遜(けんそん)しなくていいって。入庁したとき、男連中で盛り上がってたんだよ。あの子可愛い、って」  でも、彼氏がいることがわかってみんながっかりしたんだよね。椎名さんの口調はいつもと同じく穏やかで、それが本気なのか冗談なのかを読み取ることができない。 「紗友里ちゃんって、まだ22歳だよね」 「はい。早生まれなんです」 「そんなに若いのに、もう決めちゃっていいの?後悔しない?」  再び足を止めると、椎名さんが「あれ、また止まっちゃったの?」とにこやかに言った。わたしの腕を優しく掴んで、「駅、もう少しだから、頑張って歩こう」と続ける。 「後悔なんて、絶対にしないです。わたし、彼氏のこと……大好き、なので」  腕をそっと振りほどいて、彼の顔を見上げながらそう返した。──侑一さんのことを「彼氏」なんて呼び方をしたの、もしかしたら初めてかもしれない。  慣れない響きに恥ずかしくなって唇を噛むと、「紗友里ちゃんって、本当に可愛いよね」と椎名さんが笑う。 「もったいないなあ。そんなに歳上の人に持ってかれちゃうなんて」 「そんなことないです。むしろわたしのほうが、その、彼氏……に釣り合わないんじゃないかって思うことがあって」 「それはないでしょ。どれだけイケメンなの、紗友里ちゃんの彼氏」
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