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「一緒に住んだら、毎日いちゃつけるんだね。楽しみだなあ」
あのあと、シャワーを浴びてリビングに戻ったら、すでに22時を回っていた。侑一さんが冷蔵庫からビールと缶チューハイを取り出して、「物件、飲みながら見ようよ」と笑う。
「えっと、毎日は……ちょっと」
「いちゃつくって、こうやってくっついたりキスしたりって意味だよ。紗友里、なに考えてるの」
プルタブを開けるとプシュッと小気味いい音が響いて、わたしたちは、「じゃあ、乾杯。今週もお疲れさま」と缶と缶をぶつけ合った。
全開にした窓から流れ込む風は生温くて、もうすっかり夏の匂いがする。勢いよく喉に流し込んだ炭酸強めのチューハイが、ひりひりと喉に染みた。
「そういえば、来週の金曜日は飲み会だって言ってたよね」
「はい。同期飲みがあるんです。亜紀ちゃんが、ストレス溜まりすぎて飲まなきゃやってられない、って張り切ってて」
「福祉課の子だっけ?確かに、きつそうだもんね」
亜紀ちゃんは、30人ほどいる同期職員の中でも特に仲のいい女の子だ。
同い年で、お互いに札幌出身。最初の飲み会で隣の席になって、すぐにうまが合って仲良くなった。
彼女は社会福祉系の学部を卒業していて、社会福祉士の資格を持っている。そういう事情もあってかケースワーカーとして福祉課に配属され、同期の中でも特に多忙を極めていた。
「同じ保健福祉部なので、大変なのはすごくわかります。だから、集まれる人だけでやろうかって。10人くらいでこじんまりと」
「俺も、最初は同期みんなでよく飲みに行ったなあ。毎週三次会まで行ってたこともあるし。懐かしい」
「わたしはいつもどおり、一次会で切り上げようかなって思ってます」
そのあと、来てもいいですか?そう続けようとしたとき、彼がなにかを思い出したように、「そうだ」と大きな声で言った。
「土曜日、大学の同窓会があるんだ。それ自体は夜なんだけど、その前に仲良かった奴らで集まってゼロ次会やろうって話になって」
「同窓会、ですか?」
「うん。学科のね。本当はお盆にやるはずが、なぜか早まったみたいで」
だから、来週は日曜日に会おうか。侑一さんの提案に、わたしはふたつ返事で頷いた。
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