#1 待ちかねていた夏のはじまり

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紗友里(さゆり)ちゃん。今日の飲み会って、結局どこになったか知ってる?」  お昼休み。お弁当箱の蓋を開こうとしたとき、背後から柔らかな声が聞こえた。 「椎名(しいな)さん。お疲れさまです」 「ごめん、お弁当食べようとしてたところだったね。もう少しあとで来ればよかった」 「大丈夫です。えっと、場所ですよね?わたしもまだ、聞いてなくて」  そっか、と微笑む目尻の皺が、少しだけ侑一さんに似ている。実は椎名さんと話すたびにそんなことを思ってしまって、侑一さんにすごく会いたくなるんだけど──会えるのは日曜日。あさってかあ、遠いな。  無意識にため息をついてしまったらしく、「紗友里ちゃん、どうした?疲れてる?」と椎名さんに笑われてしまった。いえ、と両手をパタパタと振って見せると、椎名さんの笑い皺がさらに深くなる。 「いつも思うけど、タメ口でいいんだよ。同期なんだし」 「椎名さん、年上じゃないですか。そんなわけにはいかないです」 「紗友里ちゃん、ほんとに真面目だよね。亜紀ちゃんなんて最初からタメ口だったのに」  じゃあ俺は戻るね。お昼ご飯の邪魔してごめん。場所、わかったら教えて。──椎名さんはそう言うと、(きびす)を返して戻っていった。 「いまの人でしょ?今年の新人で一番かっこいいって言われてるの」  わたしの向かいに座る酒井(さかい)さん──入庁3年目の先輩で、いつも優しく仕事を教えてくれる──が、声を(ひそ)めて言った。 「そうなんですか?」 「前島さん、知らないの?彼氏持ちはやっぱり余裕だなぁ」 「いえ、そんなことは……」 「背が高くてイケメンで、物腰柔らかくて……。仕事もできるって聞いたよ。いくつだっけ?前職ありなんだよね?」 「そうみたいです。確か、27歳って言ってました」 「独身だよね。彼女いるのかな。さすがにいるかぁ、あんなに素敵だったら」  市役所って、いい男から売れてくんだよね。職場外で探したほうがいいかな、やっぱり。  真剣な面持ちでそんなことを言う酒井さんが面白くて、思わずくすっと笑ってしまった。
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