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「紗友里ちゃん。今日の飲み会って、結局どこになったか知ってる?」
お昼休み。お弁当箱の蓋を開こうとしたとき、背後から柔らかな声が聞こえた。
「椎名さん。お疲れさまです」
「ごめん、お弁当食べようとしてたところだったね。もう少しあとで来ればよかった」
「大丈夫です。えっと、場所ですよね?わたしもまだ、聞いてなくて」
そっか、と微笑む目尻の皺が、少しだけ侑一さんに似ている。実は椎名さんと話すたびにそんなことを思ってしまって、侑一さんにすごく会いたくなるんだけど──会えるのは日曜日。あさってかあ、遠いな。
無意識にため息をついてしまったらしく、「紗友里ちゃん、どうした?疲れてる?」と椎名さんに笑われてしまった。いえ、と両手をパタパタと振って見せると、椎名さんの笑い皺がさらに深くなる。
「いつも思うけど、タメ口でいいんだよ。同期なんだし」
「椎名さん、年上じゃないですか。そんなわけにはいかないです」
「紗友里ちゃん、ほんとに真面目だよね。亜紀ちゃんなんて最初からタメ口だったのに」
じゃあ俺は戻るね。お昼ご飯の邪魔してごめん。場所、わかったら教えて。──椎名さんはそう言うと、踵を返して戻っていった。
「いまの人でしょ?今年の新人で一番かっこいいって言われてるの」
わたしの向かいに座る酒井さん──入庁3年目の先輩で、いつも優しく仕事を教えてくれる──が、声を顰めて言った。
「そうなんですか?」
「前島さん、知らないの?彼氏持ちはやっぱり余裕だなぁ」
「いえ、そんなことは……」
「背が高くてイケメンで、物腰柔らかくて……。仕事もできるって聞いたよ。いくつだっけ?前職ありなんだよね?」
「そうみたいです。確か、27歳って言ってました」
「独身だよね。彼女いるのかな。さすがにいるかぁ、あんなに素敵だったら」
市役所って、いい男から売れてくんだよね。職場外で探したほうがいいかな、やっぱり。
真剣な面持ちでそんなことを言う酒井さんが面白くて、思わずくすっと笑ってしまった。
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