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「はい、乾杯。お疲れさま」
「お疲れさま、です」
まだ明るい空の下、広場の隅っこの芝生に腰を下ろして、プラスチックのカップをぶつけ合う。椎名さんは生ビールを一気に半分くらいまで飲むと、「あー、うまい。やっぱり外で飲むビールは最高だよね」と目を細めた。
椎名さんに買ってもらったレモンサワーをひとくち飲んで、忙しなく行き交う人の波をぼんやりと眺める。ときどき職場の人が通るけれど、まだ全員の顔を覚えているわけではない。椎名さんが会釈するのに合わせて、慌てて頭を下げている感じだ。
「椎名さん、皆さんの顔を覚えてるんですか?」
「だいたいね。って言っても、税務課なんてあまり庁舎内を歩き回らないから、少し怪しいけど」
「わたしもです。1階の人たちしかわからないかも」
「まあ、ゆっくり覚えていけばいいよ。俺はみんなより歳食ってるから、そういうのが得意なだけだし」
その横顔に刻まれた笑い皺を見ると、やっぱり侑一さんのことを思い出してしまう。早く会いたいな。同じ家に住んでいるのに、どうしてこんなふうに思ってしまうんだろう。平日は、もっと長い時間離れているというのに。
「さっきはごめんね」
「え?」
「ちょっと強引だったかな。確かに、こうして俺とふたりきりでいるところを見られたら、変な誤解を招くかもしれないよね」
紗友里ちゃんにとったら、迷惑極まりないよね。俺は大歓迎だけど。笑いながら軽い口調で言うから、やっぱり、本気なのか冗談なのか判断できない。
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