#6 それぞれの土曜日

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 侑一さんに伝えたとおり、花火を見終わって間もなく、20時半ごろ解散になった。  みんな、住んでいるところはさまざまだ。徒歩で帰る人、バスで帰る人。役所の近くに住んでいる人、そうではない人。──わたしは、「そこそこ近くに住んでいる」部類に入るだろう。うちのマンションから、道路を一本挟んだところに住んでいる椎名さんも。 「椎名さん、前島ちゃん、お疲れさま。おやすみなさーい」 「うん、おやすみ」  企画課の佐藤さんが、横断歩道を小走りで渡っていく。うちまではあと3分というところだ。結局、ここでも椎名さんとふたりきりになってしまった。 「あんなに飲んでたのに、木下たち、これから二次会するんだって」 「そうなんですか?」 「新卒はやっぱり元気だな。おっさんはもう眠いよ」  外灯が頼りなく照らす夜道を、椎名さんの半歩後ろを辿るように歩く。大人ひとり分くらいのスペースは空けているつもりだ。 「紗友里ちゃん、さっきの話……同棲のこと。なんか、余計なこと言っちゃったね」 「え?」 「始めたばかりの子にする話じゃなかったよなあって。紗友里ちゃん、すごく考え込んじゃってたから。ごめんね、忘れて」 「いえ……」  ふたりの足音と虫の声が響いている。この通りは、夜になると車通りがめっきり少なくなるらしい。 「まあ、なにか困ったことがあったら相談してよ。人生と同棲の先輩として、なにかアドバイスしてあげられるかも」  たぶん社交辞令だろうな、と思いながら曖昧に返事をした。マンションはすぐそこだ。侑一さんはもう帰っているだろうか。  エントランスから漏れる明かりが、アスファルトをぼんやりと照らしている。急に肩の荷が下りたようにほっとして、「じゃあ、今日はお疲れさまでした。おやすみなさい」──そう言って早足で駆け込もうとしたとき、マンションの前に誰かが立っていることに気づいた。 「……侑一、さん?」 「あれ、紗友里。俺もいま帰ってきたところで……」  いつものようにわたしの髪を撫でようとした侑一さんの動きが止まった。彼の視線の先は、わたしではなく──。
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