#6 それぞれの土曜日

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 エントランスに入ってオートロックを解除し、密着したままエレベーターが来るのを待つ。沈黙に耐えられなくなって口を開いた瞬間、「紗友里は、本当に同期と仲がいいんだね」と穏やかな声が降ってきた。 「あの彼とは、特に仲がいいの?」 「い、いえ。そういうわけじゃなくて、ただ、家が近いから、たまたま……」 「そっか。紗友里ちゃん、なんて呼ぶから、てっきりすごく仲がいいのかと」  静かなホールに電子音が響いて、エレベーターの扉が開いた。乗り込んで「3」のボタンを押したのと同時に、侑一さんの匂いがわたしを包み込む。 「えっと、侑一さ……」 「油断も隙もないよね。こんなに可愛いせいで、すぐ変なのが寄ってくるんだから」  頬に触れられたかと思うと、強引に唇を奪われた。壁に手首を押し付けられて、貪るように口づけられる。 「あ、の……こんなところで、んっ……」 「ちゃんと教えてね、今日のこと。ひとつ残らず」  (たぎ)る熱量を抑えているような低い声にぞくっとする。侑一さん、怒ってる──というよりは、嫉妬してる?そう思うと、さっきから続いているドキドキが、ほんの少し甘いものになる。 「俺は、早く会いたかったし抱きしめたかったしキスしたかった。紗友里は?」 「はい……わたしも、です」 「明日は一日オフだし、少しくらい夜更かししてもいいかな。疲れてるのに、ごめんね」  エレベーターが静かに止まる。頬に軽いキスを落とされて、汗ばんだ手をぎゅっと握られた。部屋に着くまでの間、「夜更かし」の意味を考えて──胸の奥がきゅっと軋んで、大きな背中に抱きつきたい衝動に駆られる。
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