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「そういえばさゆちゃん、とうとうこっちに引っ越してくるんでしょ?いい物件はあった?」
昼間は日が照って暑かったけれど、この時間になれば風も出てきてだいぶ涼しい。会場の居酒屋さんまでは、徒歩で10分ほどの距離だ。
「うん。一応、2件に絞ったんだ。どっちも来月からすぐ入居できるみたいで」
「いいなあ。大学時代から付き合ってる彼氏と同棲なんて、憧れちゃう。しかも結婚するんでしょ?」
羨ましい、と何度も言う亜紀ちゃんの視線がくすぐったくて、右隣を歩く椎名さんのほうを向いた。「彼氏さん、同い年?」と笑顔で訊かれて、「いえ、歳上です」と返す。
「さゆちゃんの彼氏、椎名くんより歳上だよ。今年で30歳だっけ?」
「うん。俺も30かあ、ってときどき呟いては落ち込んでるの」
「なにそれ、可愛い」
キャッキャと笑う亜紀ちゃんを横目で見て、「へえ、けっこう歳が離れてるんだね。紗友里ちゃん、歳上好き?」と椎名さんが目を細める。
「いえ、そういうわけじゃ」
「歳上じゃなくて、彼氏が好きなんだもんね。さゆちゃんは」
「もう、亜紀ちゃんってば」
もちろん、そうに決まってるけど──そんなの、恥ずかしくてここで言えるわけないじゃない。
黙ってしまったわたしの隣で、「ラブラブだね。俺も彼女欲しいなあ」と椎名さんが呟く。
「椎名さんなら、すぐにできると思います」と返すと、「それがね、そんなこともないんだよ」と彼が困ったように笑った。
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