ムーンライトの恋

　ある時、彰治郎さんがアタシを旅行に連れてってくれたの。
　伊豆の温泉に、二泊三日で。
　一日目は修善寺から浄蓮の滝、旧天城トンネル辺りへドライブして、二日目は伊東へ。大室山を見て、当時まだ開園まもなかったシャボテン公園にも行ったわ。
　初めて行く土地で人目を憚らず腕をくんで歩いたり、旅館でのんびりと過ごしたりして、まるで新婚旅行みたいでとっても幸せだった。
　東京に帰る前に、喫茶店に寄って二人でネルドリップのコーヒーを飲んだの。大正の雰囲気を残す洒落たお店で、店内は当時大流行してたビートルズのレコードがかかっていて。二人で旅行の思い出を、もう一度最初からひとつひとつ辿って、あれが良かったわね、これが良かったわねって、取り留めもなく話したわ。
　そしたら彰治郎さん、急に真面目な顔になって……。
「絹ちゃん」
「なぁに？」
「話したいことがあるんだ」
　なんだかイヤな予感がして、
「どうしたのよ、急に改まっちゃって。可笑(おか)しいわ」