お肌の緊急事態発生!

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お肌の緊急事態発生!

 夏の日差しが降り注ぐ中、人ごみであふれかえるイベント会場で、私は後輩に写真を撮ってもらっていた。  コスプレ友達もさっきまで一緒にいたのだけれども、私のピンの写真を撮って貰う前にその子達は本を買いに屋内へ戻ってしまった。なので、いつも私の写真を撮っている後輩に、私のカメラも渡してまとめて撮ってもらっているのだ。  後輩が満足するまで写真を撮られて、それからカメラを返してもらう。 「先輩のコスプレはいつ拝見しても最高ですね」 「そう? ありがと」  いつも通りのやりとりをしながら、お互いカメラを見て写真の確認をする。今回の衣装も徹夜の突貫工事で作ったものだけれども、写真では衣装のあらはわからない。上々の出来だ。ウィッグもメイクもうまく決まってる。額に滲んでいる汗も、写真には写っていないようだった。  ふと、後輩がカメラの写真と私の顔を見比べる。汗で滑るのか眼鏡の位置を直しながら、彼が私の顔をじっと見てこう言った。 「先輩、写真には写っていないのですが、その、顔にニキビできてませんか?」 「えっ?」  突然のことに思わず顔に手をやる。どこにニキビができているのだろう。朝、家を出る前はそんなの無かったのに。 「うそ、どこにできてる?」 「おでこと顎に一個ずつ……ですね」  言われた場所を手で触ると、たしかに出っ張りがある。そこ以外にも触ると痛い部分が所々にあった。ニキビ予備軍までできているようだった。  これは帰ったらすぐにお手入れしないと。そう心に決めて、後輩にそんなに見ないでと言って後輩の顔を手で遠ざけた。  家に帰りメイクを落として、改めて大きな鏡で顔を確認すると、おでこと顎だけでなく、頬にも何ヶ所か赤っぽくなってたり出っ張ったりしている部分があった。  なんでこんな急にニキビができたんだろう。とりあえず美容のことに詳しい友人に、スマホのアプリでヘルプのメッセージを送った。  少し経って返信が来る。どう言う状況で、どんな化粧品を使ってニキビができたのかと訊かれたので素直に答える。状況としては日差しのある高温多湿の所で、使った化粧品はいつもの口紅にアイシャドウ、それから、今回は肌の色をカバーするためにドーランを使ったと送る。すると、また間を置いてから返信が来た。内容はこうだ。 『ドーランを塗ったまま陽に当たると酸化して肌に悪いでしょ! ドーラン塗る場合は下地をしっかり塗って、上からUVカットのパウダーをはたくの! ニキビが出来ちゃったのはもうしょうがないから、しっかり化粧水はたいて水分補給して、乳液でふたをしてね。 あとちゃんと寝ること』  近頃の睡眠不足まで伝わってしまったのはもはや悔しさを感じるけれど、徹夜が肌に悪いのはわかっているのでぐうの音も出ない。  しおしおと、わかりました。と返信すると、今度は写真が送られてきた。それには初めて見る基礎化粧品らしき物が写っている。なんでも、ニキビケアにはこの化粧品がお勧めとのことで、友人もニキビの気配を感じたときにはこれを使っているそうだ。  メッセージを読んで友人の顔を思い出す。会うときはいつも肌荒れやニキビとは無縁のきれいな肌で、それこそメイクの必要なんて無さそうだと感じてしまう。  よし、明日これを買いに行こう。そう心に決めたが早いか、私は友人にお礼のメッセージを送って布団に入る。それから数分したところで、肌の水分が足りないような気がしたので、もぞもぞと起き出してまた肌に化粧水をたっぷりとはたいた。  翌日、すっぴんにマスクといういでたちで、友人に教えて貰った基礎化粧品を買いに出た。基礎化粧品はいつも見つけやすい場所に出されている、特売の安いやつしか使っていないので探すのに少し手間取った。それでもなんとか見つけだしてレジへと持って行く。今夜早速、これを使おう。  友人から教えて貰った化粧品を使いながらしばらく経った。あの時のニキビはもちろん、その後もあの化粧品を使っていたら、なにかと悩まされていたニキビがなりを潜めて表に出てこなくなったし、肌のかさつきもだいぶ収まったように感じがしていた。  またリピートしよう。そう考えるようになった頃、私は新しい衣装を作るためにあの後輩を家に呼んだ。彼ももうこういったことには慣れたもので、すんなり私の家へとやって来た。  家の中に招き入れ裁断した布を広げていると、後輩がじっと目を細めて私の顔を見る。どうしたのだろう。またニキビでもできたのだろうか。そう思ってぱっと顎を押さえると、後輩がにこりとしてこう言った。 「最近、キレイになりましたか?」  思わず顔が熱くなる。それを誤魔化すように、友人から教えて貰った化粧品を使い始めてから肌の調子が良いと早口で言うと、彼はそれは良いことです。と言って布を手に取る。 「ですが」 「ですが、なに?」 「徹夜は肌に響くので気をつけましょうね」  彼の言う正論にぐうの音も出ない。衣装を作るときは時間に余裕を持たないと。
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