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部活中。
一つ年下のマネージャーの女の子と楽しそうに話すトウマを見て。
はにかんで、ちょっと照れたように顔を赤くした彼の表情に胸が軋んで。ヒリヒリ痛くて。
私の口からは、思ってもない言葉が飛び出した。
「二人お似合いだね!いっそ、付き合っちゃえば?」
「……そうだな。考えてみてもいいかもな。」
──え?
くるりと背を向けてしまったトウマに。
キャーやだ!トウマ先輩ったら♪
なんて、猫なで声で言った女の子に。
そして何よりも素直になれない自分にイラついて。
気が付いたら、学校を飛び出してた。
神社の境内に蹲(うずくま)って。
冷えた体を抱き寄せて。
雨に濡れながら咲き誇る、青い紫陽花を見つめてた。
トウマが本当に付き合ったら、どうしよう。
好きな気持ちが増えるほど、素直になれなくて。
裏腹な態度ばっか取って…私ほんと可愛くない。
照れたみたいなトウマの顔が、頭に焼き付いてて。
目を閉じると、勝手に再生される。
あんな顔……初めて見た。
後輩ちゃんと、何の話してたの?
私が一番、トウマのこと想ってきたのに。
ずっと一緒に居たのに……。
これからも一緒に、居たい……のに……。
「サキ?…居ないのか?サキー!」
階段の上から聞こえてきた声に、顔を上げる。
ごめん。トウマ。
私、ここにいるの。
でも、声を上げることも、階段を駆け上がることも出来ない。
カタツムリだから……。
ぬるー。ぬるー。
体を動かして、一生懸命階段を這い上がる。
もー!
もっと早く動けないの?!
何でもいいから、足とかニョキッて生えてよ!
これからは、素直になるから!
だから、お願い!神様!
私を元の姿に戻して!!
「はぁ……居ないか。」
とぼとぼ階段を下りてきたトウマが、私の横をすり抜けていく。
当然だよね。
だって、カタツムリだもん。
トウマの視界に入ることすら出来ない……。
これは、何かの罰なのかな。
もう、一生トウマとは話せないのかな。
あんな心にも無い言葉が…最後の会話なのかな。
イヤ。
イヤだ!
トウマに伝えたいの。
私の、本当の気持ち。
小さい頃から、ずっと好きだったって……。
「青い紫陽花の花言葉は『辛抱強い愛情』だって。」
「ふーん。ってかトウマ乙女だねー、花言葉知ってるなんてさ。」
「は?バッ、バカ、たまたまだ!」
顔を真っ赤にして怒ったトウマ。
うそ。ちゃんと、分かってたよ。
私が紫陽花好きだから、調べてくれたんだよね?
いつだって、優しくて、真っ直ぐな。
そんなトウマが、ずっと、ずっと好きなの。
私は辛抱強いんじゃなくて、ただ臆病だっただけ。
トウマにフラれるのが怖かっただけ。
どんどん遠くなっていくトウマの背中を、雨に打たれながら私は見送るしか出来なかった……。
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