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雪ちゃんの家は初めてだ。一人暮らしとは聞いていたが、アパートではなくてマンションだったのには驚いた。元々はご両親と暮らしていたが、お仕事で海外に赴任している為、一人暮らしをしているという。
「適当に座っててくださいね」
て、適当にって、どこに?
ドラマに出てくるようなお洒落なお部屋に緊張して、私はキョロキョロしっぱなしだ。高級そうなソファの隅っこに腰かける。
雪ちゃんはキッチンで何か良い匂いをさせながら楽しそうに準備をしてくれている。
「す、素敵なおうちだね」
「広いだけで、1人だと持て余してるんですよ~」
「羨ましいなぁ!一回でいいから住んでみたいよ!」
「じゃあ、一緒に住んじゃいます?」
「え!??」
それは夢の百合同棲ってやつですか?いや、同居か?
雪ちゃんの思わぬ発言に頭の中が百合色に染まる。
ぼんやりと妄想に浸る私の前に、豪華なお料理や高級そうなお酒が並べられていく。
想像よりも手の込んだ料理の数々に、お礼だとは言われていたが気が引ける。
せいぜい、手作りのカレーとかパスタだろうと想像していた私の予想を遙か彼方に上回っている。
「雪ちゃん、こんなお料理、なんだか申し訳ないよ・・・」
「これでも足りない位ですよ。さ、乾杯しましょ、先輩」
いつもよりも積極的な雪ちゃんが私の隣に座った。肩が触れあって、雪ちゃんの体温が伝わってくる。これまでほとんど接触がなかったのに、急に縮まった距離にどきまぎしている私に雪ちゃんはグラスを渡してくる。しゅわしゅわと泡立つピンクのお酒は信じられない位に美味しかった。
お料理も最高で、私は感動で涙目になっていたと思う。
「雪ちゃん、美味しい!お店開けるよ!」
「うふふ、先輩のために頑張ったんですよ」
「ありがとう、本当にうれしいよ」
お酒のせいか、体がふわふわとしている。
雪ちゃんのお料理もおいしいし、くっついてくる体温が気持ちよくて、これは夢が叶ったも同然ではないかと浮かれていると、先ほどまで私の隣にいた雪ちゃんが私を見下ろしている。
「ん?」
とすっと軽い音がして私はソファに仰向けに倒れていた。天井を見上げる間もなく、私の視界には雪ちゃんの顔だけが入り込んでくる。
「先輩、本当に可愛い」
色っぽい顔をした雪ちゃんの顔がどんどん近づいてくる。アルコールの匂いに混じって香水の甘い香りが鼻をくすぐる。柔らかい髪が頬や首筋に触れてくすぐったい。雪ちゃん、と名前を呼ぼうとした唇に柔らかくて暖かい何かが触れた。
「ん・・・」
触れるだけのキスはあっという間に離れていく。
これは私の妄想なのかと理解が追い付かないうちに二回目。今度は少しだけ長くて、やっぱり触れるだけで離れていく。三回目は少し角度を変えて深くなる。四回目に舌先が口の中に入り込んできて、ようやく現実だと理解した。
「ゆき、ちゃん?」
「かわいい、ずっとこうしたかったんです」
ぎゅうっと雪ちゃんが私の身体を抱きしめてくる。抱きしめる力の強さに少しだけ眉を寄せて、抱きしめ返すために背中に手をまわす。初めてちゃんと触れた雪ちゃんの身体は、想像よりも骨ばっていて、もう少し肉をつけた方がいいんじゃないかと思う。
可愛い女の子は柔らかいほうが絶対に素敵なんだから。
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