可愛い女の子が大好きです

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  「せんぱい、好き、大好き」  熱っぽい雪ちゃんの声が首筋をくすぐる。  まさか雪ちゃんからこんな積極的に求められるなんて思ってなかった。想定外だったけど嫌じゃない。ちょっと性急すぎる気がするけど。  雪ちゃんの手が私の胸元をまさぐってくる。細くて長い指先が器用に服を脱がそうとしているのをぼんやりと見ながら、私も雪ちゃんに触りたいと手を伸ばす。柔らかいであろう胸のふくらみを期待して触れた胸は切ないほどに真っ平だった。 「・・・?」  そんなわけはない。  雪ちゃんの胸は服越しだったけど、理想的な膨らみをしていたのを何度も見ている。ブラジャーの柄の話までしたことがある。パットで盛っていたとしても、ここまで真っ平なのは、何かおかしい。  回らない頭を傾げて、何気なく視線を下におろしていけば、私にまたがっている雪ちゃんの足の間、スカートの股間部分が不自然に盛り上がっている。 「・・・・???」  わたし は こんらん している 「せんぱぁい」  私の混乱に気が付いているのか無視しているのか、雪ちゃんの動きは止まらない。いつの間にか服の中に滑り込んだ手が下着ごしに胸をもんでいる。  荒くなった呼吸が首筋に押し付けられて、くすぐったい。 「待って、待って雪ちゃん!!」  全力で雪ちゃんの胸板を押し返す。しかしびくともしない。それどころか、抵抗を封じるように腕を掴まれてしまう。こんな力強さは女の子のそれじゃない。 「・・・雪ちゃん、あなたまさか・・・!!?」  そんな、夢だと言ってくれ。  こんなに可愛くて理想の女の子だと思ってた雪ちゃんが、そんな、そんな!! 「本当に今まで気が付かなかったんですか?私・・・いや、僕は男ですよ」  にやり、と口元を意地悪そうに歪ませて笑う雪ちゃんは私の知らない顔をしていた。 「・・・・・!!!!」  ショックのあまり言葉を失ってしまう。  馬鹿な!私は可愛い女の子とイチャイチャするのが夢なのに!女装男子なんて想定外にも程があるわ!! 「先輩、めちゃくちゃ無防備だから、ずっと我慢してて辛かったんですよ?今日まで待ったんだから誉めてください」 「待って、本当に待って。理解が追い付かないから、一回放してくれない?」 「嫌。だって、絶対逃げるでしょ」 「・・・逃げないもん」 「嘘つくときは目線を合わせない癖があるの、知ってました?」 「!?」  逃げ出そうにも、私の腕をつかむ雪ちゃんの腕はびくともしない。 「だって、雪ちゃん、可愛くなりたいって」 「それは本当ですよ。僕はかわいいものが大好きなんです。自分も可愛くなりたかった」 「・・・おかまさん?」 「勘違いしないでください。別に女になりたいわけじゃなくて、可愛くなりたいだけす。僕は女の子が大好きなんです。柔らかくて可愛くて抱きしめたくなる」  一緒だね!と言いかけて、いや違う!と叫びたくなる。 「先輩には本当に感謝してるんですよ?可愛くなるために手ほどきをしてくれて、僕の人生は大きく変わりました。恩人です」 「そう思ってるんだったら、放してほしいナー」 「駄目ですよ。やっと手に入れたのに」  ペロリと雪ちゃんが自分の唇を舐める。  可愛い顔をしているのに、なんだか肉食獣みたいだ。 「先輩が気にかけてるのが僕だけなら、もう少し我慢しようと思ってたんですよ?でも、先輩、最近他の女の子にちょっかい掛けようとしてたでしょ。駄目ですよ、浮気は」 「う、浮気って」  だって、髪形を変えるだけで可愛くなりそうな女の子が目の前にいたら話しかけたくなるじゃない。美容院に連れて行って、一緒に服を選びたいって思うじゃない。 「私は、ただちょっと仲良くなりたいだけで、そんなつもりは」 「先輩になくても、相手はどんなつもりかわからないでしょ。こんな簡単に押し倒されて。よく今日まで無事でしたね」 「普通、可愛い女の子は押し倒したりしてこないと思うの」 「実際、今押し倒されてるじゃないですか」 「・・・雪ちゃん、可愛い女の子じゃなかったし!!」 「テヘ」  そんな可愛い顔しても騙されないぞ!! 「あの、雪ちゃん、どこまで本気で・・・?」 「僕はいつだって本気ですよ。ずっと先輩とこうしたいって思ってました」  服の中に滑り込んだままの手が動き出す。さっきよりも明確な意思を持って下着の中に滑り込もうとするのを身をよじって必死に阻むが、あっけなく柔らかい皮膚に直接触れられて、思わず息を呑んだ。 「優しくしますから、怖がらないで」 「無理、絶対無理。お願い放して・・・」  雪ちゃんは私のお願いに弱い。だから精いっぱいの可愛い顔をして懇願してみる。 「ああもう、そんなに僕を煽らないで。これでも我慢してるんですよ?」  うるんだ瞳で私を見下ろして苦しげに眉根を寄せる表情はドキドキする程色っぽい。  男だなんて信じられない。  が、太股に擦り付けられている信じられないほどに硬くて熱いナニかが、悲しい現実を突き付けてくる。  物理的にも。 「絶対気持ちよくしますから、いい子だから逃げないで・・・お ね え さ ま 」  耳に吹き込まれるように囁かれた言葉に背中がぞくりと震える。  ずるい、と叫びかけた唇は簡単に塞がれて、私はそのまま女装男子の餌食となったのだった。
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