【13】

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「……どうかなさって?」    私はミーシャを見た。   「いえ……ネコちゃんを見ていたら、ふと私の友人を思い出しておりました」    気を取り直したように微笑み、ミーシャは紅茶を飲んだ。      ……そうよね。いきなり平民として町で暮らしていたんだもの、町での友だちも、この子ならきっと沢山いたに違いないわ。今は貴族の子だし、なかなか顔を合わせる機会はないでしょうし。    元から友だちのいない私とは違うわよね。    ちょっとだけ寂しい気持ちにはなったが、私も今日からぼっちじゃないわ。  優しくて、料理が上手くて、女性としてのヒエラルキーの頂点にいるようなミーシャが友だちになってくれるんだもの。    ここから、更にこう、上手いこと彼女をシェーン様のルートに乗せて流しそうめんのようにつるつるーっと……。    などと脳内でデータベースをわさわさいじくっていると、ミーシャが私を真剣な顔つきで私を見た。   「ルシア様……」   「何かしら?」   「ニホン、って言葉に聞き覚えございますか?」   「……え?」    今ミーシャは何といった。  ニホン、と聞こえたんだけれど。聞き間違い?   「あ、宗教の勧誘とかではございませんのよ?  ……私、伯爵家に引き取られて、やはり伯母様の所とはいえ、いきなり環境が激変したものですから、早々に熱を出して寝込んだんですの」   「まあ……そうよね、いきなり貴族の世界ですものね」   「ええ。それで、うなされている間に長い夢を見ました。私がこの国ではない世界で生まれて亡くなるまでの事です」      ──何だか心臓がばくばくする。     「そこは、この国とは比べ物にならないほど文明が進んでおりまして、遠くの映像を自宅で眺められるテレビ、という機械ですとか、馬が不要なクルマという油で走る馬車みたいなもの、離れた人と会話できる電話というものなどが普及しておりまして、書物や絵の分野も大変な種類がございました……」        まさか。まさかまさか。       「私は、そこで『げーむあぷり』という娯楽に熱中しておりまして……まあ、それが元で亡くなったのですが、その時にトロロという名前の食べ物が大好きな親友がおりました。この国にはない野菜の名前です。  ルシア様のネコちゃんの名前を伺った時に、その子の事をまた思い出してしまいました」      ああ、まさか、まさかそんな。  そんな事が起こり得るの?   「ふふ。きっと熱に浮かされて記憶が有りもしないモノを見せていたのかも知れませんわね。  戯れ言と聞き流して下さいませ」    クスクスと笑うミーシャは、だが私と同い年だ。  彼女なら私の1つ上だった。    だけど、同じ年の差になるとは限らないわよね。  ああでも期待してもし違ったら。  でも確かめなければ。    私は声が震えてしまわないよう必死で押さえ込んだ。     「ミーシャ……『溺愛ファイナルアンサー 』ってご存知?」    ガシャン、と音を立ててティーカップが皿に落ちた。     「まさか……嘘、そんな……ひーちゃんなの?」    驚きでミーシャの顔が固まった。   「……みずきちゃん、なの?」    私は立ち上がった。  目からぼろぼろと涙が流れて止まらない。   「ひーちゃんっ!!」   「みずきちゃんっ!!」    ミーシャも立ち上がり私を力一杯抱きしめた。  彼女も涙でぐしゃぐしゃだ。   「あーん、みずきちゃん生きてたのねえええ!!」   「わーん、バカ言ってんじゃないわよ、きっちり死んだから今ここにいるんでしょうよぉぉ」   「ああそうよねぇ!でも死んでて良かったとは言えないわーー」   「そこは素直に会えて良かったでいいでしょうがぁ」   「会えて良かったあ、みずきちゃん会いたかったよー」   「あたしもよーーーっ」      2人抱き合って鼻水垂らしておーいおい泣きながらも、私たちは邂逅を喜び合うのだった。               
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