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 朝……と言うか昼に近い時間に目覚めた私は、馬車からどうやって自室に戻ってきたのか全く記憶になかった。    確か、シェーン様が送ってくれると言うので……それで……眠くて眠くて仕方がなかったので肩を借りてしまった気がするが、はて。着いた時に起こされたのか?    んー、と思いながらも運動着に着替えた。  頭痛がする。やはり飲み過ぎたのね。      運動着はボタンもジッパーもない、ウエストがゴムになっている、前世で言う薄手のトレーナーの上下みたいなものだ。     「失礼します。ルシア様、お目覚めですか?」    物音が聞こえたのか、扉の外側からノックの音がして、ひょこん、とジジが顔を覗かせた。 「おはよう……いえ、もうこんにちは、だわね。  ごめんなさいね、あと記憶にないのだけれど、フェルナンドがベッドに運んでくれたのかしら?」    私はトレーニングルームへ一緒に移動しながらジジに尋ねた。    表でやった方が気分はいいのだが、父様と母様にせめて屋敷内でやってくれと泣きつかれたので、仕方なく空いていた部屋の家具を全部別の部屋へ移動してもらう事にして、改造した。    日曜大工で鍛えた技術で、腹筋や背筋を鍛えるための足を引っかけるバーのついたベッドや、重りをつけた重量挙げ風ベンチプレス、鉄棒なども作った。    ついでにせっかくなので片側一面鏡張りにして、自分の体もこまめにチェック出来るようにした。奥の扉を開けばシャワールームとトイレまで完備されている。    自分で言うのもなんだが、個人専用の高級スポーツジムのようである。    私は一体どこへ向かおうとしているのだろうか。    準備運動とストレッチをしてからベッドに横たわり、捻り運動を始めながら、まあ少なくとも未来の王妃への道ではないわね、と思う。   「フェルナンドさんではなく、シェーン様がベッドまで運んで下さいました」  タオルと飲み物をテーブルに置きながら、ジジが何でもない事のように告げたので、私はああそうと言いかけて固まった。   「──シェーン様?シェーン様がベッドまで私を?」   「はい。フェルナンドさんが代わりますと申し上げたのですが、婚約者の自分の役目だと」    別に家の者に任せててくれればいいモノを。  眠ってる人間は重たいと言うのに。  またシェーン様に余計な迷惑をかけてしまった。  明日にでもクッキーでも焼いてお詫びに行こう。    もう当分お酒は飲むまい。  私は心に決めた。        気持ちよく汗をかいたのでシャワーを浴び、普段着に着替え昼食を食べた。  ウチのコックが作るホットサンドは大変美味しい。  今日は玉子とカリカリのベーコンが挟んであった。細胞に染み渡るおいしさであった。      前世の私は、物語の中世ヨーロッパ風の世界の女性と言うのは、常に手入れの面倒臭そうなヒラヒラしたドレスをまとってオホホホとやっていると思ってたが、この国では普通に勝負服だった。    従って、基本的に貴族の女性でもワンピースだったりカットソーとスカート、などという町の一般の女性と同じようなごく普通の格好をしている。    それでもパンツルックはかなりの少数派だし、スカートも膝下丈は必須、お値段も桁が1つか2つ違ったりはするけれど。      そんな私の今日の普段着は、ベージュの作業パンツと白の長袖の綿シャツである。    腹巻きでもしていたら「なーのだー」と2頭身で飛び回っているどっかのパパのようだが、本日は日曜大工デーなのである。      屋敷の敷地内に森と言ってもいいエリアがあるのだが、その中の木に小さな鳥の巣が出来ていた。    可愛い甥っ子が鳥が好きなので、遊びに来て一緒に散歩していた私に、   「あめになったら、かわいそねー」    ときゅるんとした瞳を向けた。  コイツあざとい。  だが許す。    すっかり甥っ子バカである私は、雨でも平気な巣箱を作成するためせっせと頑張っているのだ。   「へーい、よっこらせーのどっこいせー♪」    シャーコシャーコと細身のノコギリで屋根にする板を切る。作業する時に鼻唄がつい出てしまうが、不思議と無言でやるよりも捗る気がする。    首に引っかけていたタオルで汗を拭う。    一通りの巣箱作りに必要な板はカットしたので、組み立てるべか、と釘を掴みコンコンと木槌で打っていると、ジジが早足でやって来て、   「ルシア様、ご友人様がお見えです」    と声をかけた。   「やあねえジジ。私に友だちはいなくてよ」   「いえ本当にいらしてますから。その格好を早く何とかして下さい。フェルナンドさんが案内を──」      私が振り向くと、フェルナンドがミーシャを連れて中庭にやって来るところだった。        ……絶体絶命……なーのだー。            
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