【14】

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 涙がお互い収まると、私が語り合いたかったように、みずきちゃん……今はミーシャだが、も同様に思っていたようで、泊まっていっても構わないかと聞いてきた。   「いいに決まってるじゃない!」   「ありがとう!」    父様も母様も私が初めて友人を家に呼んだ(いや、今回はあちらから来たのだが)という事で嬉しくて仕方がないようで、   「いくらでもゆっくりしていくといい。ルシアとこれからも仲良くしてやって欲しい」    と血流が止まる勢いでミーシャの手をぎゅうぎゅう握って振りまくっていた。    ミーシャはミーシャで、控え室で待っていた自分の所のメイドに、     「ルシア様との話が尽きないので、今夜はバーネット家に泊まる事にしますとお父様たちに伝えてちょうだい。あと申し訳ないけど後で寝間着と着替えをお願いね」   「はい、かしこまりました」    そう言って帰らせた。    20代半ばぐらいの一見きつめの顔立ちのメイドは、引き取られた当初からすごく親身になってくれた人らしく、ミーシャの一番頼りにしている人のようだ。        夕食後、お風呂に入って私の部屋でくつろいだ私たちは、今までの暮らしを語り合った。   「ひーちゃん……いえ、もう私たちはそれぞれ別の名前で生きてるんだもの、今の名前で呼ぶわね。  ルシアはいつ頃思い出したの?」   「10の頃よ。それでファイナルアンサーの世界だって気づいて。驚いたけど、現実なんだから受け入れるしかないじゃない?……でもまさかルシアに転生するとは思ってなかったけど」   「そうよねえ。……私はさっきも言った通り、伯爵家に来るまでは病弱な母さんと平民生活だったから、正直ゆとりのある暮らしではなかったけど、町の人がいい人ばっかりで結構楽しく暮らしてたのよ」   「で、気づいた時、どう思った?」   「当然ガッツポーズよ。どっかの覇王じゃないけど、拳を高々と突き上げて、『よっしゃこれからの人生勝ち犬じゃー!』ってね。だってこのスペックよ?」   「ミーシャは私たちの心のアイドルだったものねえ」   「うん。だからね、おかしいなと思って」   「……何が?」   「昨日のダンスパーティーよ。  あのルシアが私を庇うなんて有り得ると思う?  ゲームのエグいいじめっぷり覚えてるでしょうよ。それが、何故かあの取り巻きとも一緒にいないし、呼び出しくらって叩かれてる所に助けに来るし。  え?どうなってんの、って思うでしょ?  だから御礼ついでに何が起こってるのか様子を探りたくてやって来たのよ。  まさかひーちゃ……ルシアが転生してるなんて」   「ああ、そう言う事ね。まあ知ってればおかしいわよね確かに。ルシアなら高笑いしてるものね」   「そうよ。それが足の怪我も忘れて……あら、足は?」    ミーシャが私の足を見た。   「ダンスが苦手でね。足首痛めた振りをしてただけよ」   「ふふふっ、貴女ならやりかねないわね」    ひとしきり笑うと、ミーシャが真顔になった。   「ルシアに生まれたってことは、本来は断罪コースよね?その辺りはどうなの?何か兆しは?」      そう。一番話したかったのはそこなのだ。     「──ルシアの生存エンドはシェーン様とのトゥルーエンドだけじゃない?今の婚約者のままならば、って事だけれど。  だから、何とか先ずは婚約破棄を、と思って10歳の時から事あるごとに婚約破棄をお願いしていたんだけど、どうしてもシェーン様が頷いてくれなかったの。  でね、これはあの人の義理を重んじるお堅い性格と、まだミーシャに出会ってないせいだと考えたの」   「それで、昨日のダンスパーティーに私が来るのを知ってやって来た訳ね」   「そうなの。……で、どうかしらシェーン様?」   「どうかしら、って?」   「落としてもいいとか、ちょっと攻略したいとか。何かトキメキを感じたとか」   「いやそれが全く。  男は30からって思ってるし、ほら私が前世でアクセル様推しだったの知ってるでしょう?  大体私と目も殆ど合わせなかったわよシェーン様」    アクセル様……護衛騎士団の隊長か。    言われてみれば10代の時から一回りは上の人にしか興味がなかったわみずきちゃん。付き合ってた彼氏も13歳年上だったっけ。   「……そう、なの……」    ミーシャがシェーン様に惚れたんなら良かったけど、中身がみずきちゃんだし、好きでもない男に自分の命のためアタックしてくれとは言えない。   「逃げるしかないかしらね……どこか別の町に逃げて平民として天寿を全うするしか……」    私は遠くを見つめてぼんやりと呟いた。   「ちょっと。せっかくこうして会えたのに逃げるとかやめてよ!会えなくなったらイヤよ私」   「私もミーシャと会えなくなるのは嫌だけど、あと1年程しかないのよ?トゥルーエンドでは確かミーシャが18歳でシェーン様と結婚してたし、あなた今17じゃない。  てことは、ミーシャがここ1年位でシェーン様との婚約・結婚をしてもらわないと駄目なのよ。  歴史の強制力が掛からないとも言い切れないし」   「元からルシアが断罪されるか幽閉拷問殺人凌辱精神崩壊モードになる予定だってこと?」   「ひえぇっ、凌辱精神崩壊まであった?  私ルシアのその後ってそんなに細かく覚えてないのよ。ヒロインの分岐ルートとかは覚えてるんだけど」   「うん、確か私を虐めていたのを知ったハーバート様が、人を雇って6人位で襲わせて輪姦されて、売春宿に売り飛ばされてた。そこでプライドの高いルシアは心が壊れちゃうのよ」    ハーバート様、あんな大人しい見た目でなんてえげつないヤンデレ。いや愛が重いから怨みもすごいのか。    まあアクセル様ルートで馬車の前に突き飛ばして馬に踏まれて死ぬのも、シェーン様のルートで断頭台や生涯幽閉も充分キツいけど。 「あれ、拷問て誰だったかしら?」   「グスタフ様ね秘書官の。あの人元々がドSだから」   「……やっぱり逃げるしか」   「待ちなさいってば。私が誰とくっつくにしても、現時点で大分流れは変わってる訳じゃない?ルシアがミーシャを虐めまくってるって展開もないし。  そもそも私もルシアも中身がゲームの時と違うんだから、歴史自体が違う方向に向かってる可能性もある」    私は涙目のまま、   「……確かに、ルシアがこんな毎日腹筋割れるほど体を鍛えてるとか、大工仕事してるって描写はなかったわよね……」   「腹筋割れてるの?ぜひ触らせて。  いや、まあそれはともかくね、私とルシアが仲良くしていればさっきの展開にはならないと思うの」   「そう、かしら……」   「私を虐める事がトリガーな訳じゃない?ルシアは今後私を虐める予定ある?」   「そんな訳ないでしょう!」   「でしょう?だったらひとまずこのまま様子を見ましょうよ。ね?どうしても逃げなきゃいけないような展開になったら、私が全面的にサポートするわ」   「ミーシャ……」   「ほら泣かないの。せっかくの美人が台無しじゃない。大丈夫、私がルシアを絶対に死なせるような目には合わせないわ!」    ハンカチで優しく涙と鼻水を拭われ、ずっと1人で気を張って生きていた気持ちが緩んだ。   「わだ、わだじもミーシャを守るかだねぇ」   「うん、分かった分かった。ずっと怖かったよねルシアも。ありがとう。鼻かもうか、ほら」    ティッシュを渡され、ずびびー、と鼻をかむ。   「あり、ありがと」   「御礼なんかいいわよ。今日はもう寝ましょう」    2人でベッドにもぐり込み、寄り添った。           これからは、私も少しは気を楽にして生きて行けるのかな。安堵と一抹の不安を感じながらも、気づけば深い眠りに落ちていた。          
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