【15】

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 翌朝、朝食を食べながら2人で話し合った決め事は、        ●現状、危険な兆候がない限りはいつも通りの生活をすること。    ●連絡は密に取り合うこと。    ●ルシアとミーシャの仲良しアピールのため、面倒でもなるべく一緒にお茶会などの社交をこなすこと。    ●王子ルートは政治的にも社会的にも高難度かつ好物件であるため、これからどうするかは置いといて、常に足元を掬われないよう気を配ること。       であった。   「……でね、とりあえず聞いておくけど、ルシアは王子の事はどう思ってるの?」    ミーシャがサラダを食べつつ私に聞いてきた。   「え?うーん……考えた事もなかったわ……」    私はジャガイモのポタージュを口に運ぼうとして手を止めた。      いや、確かにかなりの率でしかめっ面だし、表情筋は死んでるし、目付きは鋭いけども、悪い人ではない。    とても優しいところがあるし、婚約破棄を頑なに認めてくれない頑固さはあるが、真面目だし、頭もいい。    顔もしかめっ面でなければ超イケメンと言ってもいいし、体も筋肉質で背も高い。    政略結婚である事を差し引いたとしても、普通に言えば文句なしの人だと思う。ただし、だ。   「私はハーバート様のような穏やかな顔つきの人が安心できるし、居心地がいい感じなのよねぇ。  小心者だから、王妃とか間違いなく向いてないと思うし、その前に生き延びる事しか頭になかったから、そんな事を考えるゆとりもなかったっていうか……」   「そうね、こんな若くて綺麗な内に死にたくないしねぇ。ただでさえ前世でもうら若き20代で散ったじゃない?私も今度こそババアまで生きてやると思ったわ」    ミーシャがザクッ!とキュウリにフォークを刺した。  どうでもいいけど怒った顔も眼福だわ。   「本音言うと、ミーシャが好きな人と結婚まで行った時に、私の死亡フラグが立たない事が確認出来るまでは、愛とか恋とか二の次だわ。──政略結婚するにしても」   「……ん、そっか。分かった。じゃ、とりあえず私のお相手第1希望のアクセル様、紹介してくれる?」      ……あ、そうだった。見た目で忘れてたけど、みずきちゃんそういや肉食系だったわ。      ふと私は今日シェーン様のところへお詫びがてらクッキーを焼いて持って行こうとしていたのを思い出した。  ミーシャも連れて行けば一石二鳥じゃない。    私はほくほくと今日の予定を説明するのだった。            護衛騎士団の隊長、アクセル・カーマイン様は、31歳になる現在も独身である。婚約者もいない。    ゲームでは王族に忠誠を誓っているので、いつ死ぬことになるかも知れないからと、恋愛や家庭を持つ事など全く考えていない、という武骨キャラだった。    そこを如何に自分に興味を持たせて結婚を考えるように方向転換させるかが醍醐味だったのだが、攻略キャラ最大の難易度だった。  シェーン様の方がよっぽど攻略は楽だった。    何度も後半の会話の選択肢の組み合わせでミスって、   「やはり国のため、王族を守るために俺は生きる」    と言われ悔しさに目頭を押さえたたことか。    私はアクセル様がきっかけでデータ収集型になったと言っても過言ではない。    赤毛の短髪、エメラルドグリーンの瞳にいかにも騎士団といった均整の取れたガッシリした体格の美丈夫。    みずきちゃんは、アクセル様に対しては、何度しくじってもその過程が堪らない、萌えるわー、と決して攻略サイトを見なかった。    キャラガチャは、新しいのが出るたびに常にフルコンプして、ゲーム内のマイルームはアクセル様のお気に入りの家具コレクションで埋まっていたほどの熱の入れようで、他のキャラはおざなりにしかやってなかった。    ミーシャの中身がみずきちゃんと分かった時点で、シェーン様ルートは消えていたんだった。        □■□■□■□■□■□■       「シェーン様、ルシア様がご友人と面会にお見えですが、どうされますか?」    執務室にノックの音がしてアクセルが入って来た。   「ルシアに友人が?──え?居たのか?  今までそんな気配すら感じなかったが」   「婚約者に対して酷い言いようですね。ご友人位いらっしゃるでしょう年頃のご令嬢ならば」   「ルシアを一般的な枠に当てはめるな。あいつには【普通】という概念はない。まあそこがいいんだが」    僕は書類を端に寄せると、   「通してくれ」    とソワソワと指を組んだ。     「失礼致します。シェーン様、昨日は大変ご迷惑をおかけしたそうで誠に申し訳ございませんでした」    入口で淑女の礼を取ると、ルシアが済まなそうな顔で入ってきた。      ご迷惑?何か迷惑をかけられただろうか?      ……もしかすると、あの役得だったベッドへの移動の事だろうか?だとすると、あれはむしろ僕にはご褒美と言ってもいい一時だったんだが。お陰で夜の妄想がはかどっ、いやいい夢が見られた。   「あの、つまらないものですが、お疲れの時に召し上がって頂こうとクッキーを焼きましたの。こんなものではお詫びにもなりませんが、もしよろしければ……」    そっと差し出された缶を開けると、アーモンドの香りが拡がって食欲をそそる円型のクッキーが並んでいた。  ルシアは余り料理が得意じゃないのに、自分のためにこれを焼いてくれたのかと思うと、少々イビツな形のクッキーすらもいとおしい。   「……美味そうだな。ちょうど休憩しようとしていたから一緒にお茶でも飲むか?」    普段なら用事を済ますとさっさと帰るルシアが、   「では少しだけ……」    と頷いた事に驚いて、誘ったのは自分なのに思わず   「どうした。珍しいな」    と返してしまった。   「……たまには宜しいかと思いまして。  あと、シェーン様にとても仲良くなった友人の紹介もしたかったんですの」    と微笑むルシアが可愛すぎて、股間がダイレクトに反応してしまった。  危ない。執務机で隠れていて良かった。   「アクセル、済まないがお茶を頼んでくれないか」   「かしこまりました」    一礼して出ていくアクセルを見送ると、   「ルシア……とそちらのご令嬢もそこのソファーで休んでてくれ。茶が来るまでに少しだけ片付ける書類がある」    とペンを取った。   「はい、私たちの事はお気になさらず。お仕事が一番大切ですもの」   「……済まないな」    ルシアの気遣う言葉に、いやルシアの方が大切に決まってるけども、この股間をどうにかしないと、と心で言い訳しつつ、する気もなかった書類に目を通し僕は必死で平常心平常心……と煩悩を追い払う作業にいそしむのだった。          
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