【17】

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 さて、シェーン様に社交を頑張る宣言をしてから数日。      屋敷では相変わらず作業パンツに長袖の綿のシャツで、肩にはスカーフならぬハンドタオルをかけ、ぺったらぺったらと完成した鳥の巣箱の屋根部分に赤いペンキを塗りながら私は考えていた。        私は引きこもりで社交は苦手ではあるが、腐っても名門と呼ばれる侯爵家の令嬢であり、現在は王子の婚約者である。    お茶会や音楽鑑賞、舞台鑑賞のお誘いなどはかなり来てはいるのだ。    どうせ王族との繋がりを得たいとか、私の令嬢にあるまじき暮らしっぷりを聞いての好奇心からであるのは大方予想はつくので、面倒なので全ての誘いを断っているだけである。    お陰で詫び状を書くスキルがどんどん上がり、シェーン様からのお誘いもスラスラと流れるようにもっともらしい断りの文言が無意識に書けるようになったのは嬉しい誤算だが、断ってばかりだったので、主要なご令嬢の顔と名前が一致しない。   (ミーシャを苛めてた3人以外はろくに顔も覚えてないのよねえ……貴族名鑑は暗記してるから名前はオッケーなんだけど)    屋根を塗り終え、漏れはないかと見回して頷く。  乾かすため新聞の上にそっと置くとペンキを片づけ、刷毛を洗い、手も洗って思いっきり伸びをした。   「あー同じ体勢でずっと作業するのは疲れるわねぇ」    タオルで手を拭きながらぐるぐると首を回す。   「でもようやく完成ですね。きっとジェイソン様もお喜びになりますよ!」    側で見ていたジジがペンキや刷毛などを片づけながら私に笑顔を見せた。   「だといいけれど。……あとは乾いたら通いの庭師にでも頼んで木の上に設置してもらえばいいわよね」    そろそろミーシャがやって来る時間じゃないかと時計を見に行こうとしたところで丁度フェルナンドがやって来た。   「ルシア様、ミーシャ様がおいでになりました」   「通してちょうだい。お茶の支度もお願いね」    ミーシャは私がどんな格好でも問題ないから、と皆には伝えてあるので、大工モードでも無問題である。   「ミーシャ、いらっしゃい!」    案内されてやって来たミーシャは白の細かいレースが施されたフレアーのワンピースに水色のカチューシャと、初めて来た時と同じく上品で美しい。いかにもお嬢様といった感じである。   「今日はプリンを作って来ましたわルシア様」   「まあ!大好きなのプリン!ありがとうミーシャ」    フェルナンドもジジも、お茶の用意をして笑顔で早々に下がっていった。   「何だかいつも歓待してくれるわね」   「私がぼっちだと思ってたのに、友だちが出来たので嬉しいのよ多分。──ねえ、プリン食べていい?」   「食べて貰うために作ってきたのよ。どうぞ」    私は前世からの大好物をいそいそと取り出して早速一口食べた。   「~~っ!美味しい!このバニラビーンズの香りがたまらないわあ」   「そう、気に入ってくれて良かったわ。  前世ではそんなに料理とかしなかったんだけど、平民暮らしで父親は早くに死んでるし、母親病弱なら私がやるしかないじゃない?お陰で前より上達したわよ。屋敷では結構いい材料使い放題だし」   「あ、そうよね……」   「やだ、変な気を使わないでよ?もう過ぎた事だし、いい思い出とかも沢山あるんだから」    ミーシャが屈託なく笑ってプリンを一緒に食べ始めたので私はホッとした。   「ところで、なんで友だちを作ってないのルシア?」   「んー、ほら、もしミーシャにシェーン様が出会うまでに婚約破棄が出来なかったら、断罪になると思ってたから。他のルートに行っても毒殺か轢死か投獄……トゥルーエンドで平民落ち以外はろくなエンディングなかったから、周りにも迷惑かかったら悪いじゃない」   「……ああ、ルシアは昔からそういう子だったわ。  まあ今のところシェーン様が私に惚れるってのもないし、アクセル様にアタックしても、私と仲が良いのはアピールしてきたから、恨まれて馬車に突き飛ばされるってのも大丈夫でしょ」    カフェオレを飲み、ミーシャがふと考え込んだ。   「でもアクセル様は、かなり難しそうだわ……」   「え?ミーシャの美貌があれば楽勝じゃないの」    私は驚いた。  ミーシャが本気になれば落とせない男性はいないと思うのだが。   「だってこの世界でいくら美少女とはいっても、14歳も年下って恋愛対象として見られると思う?  それもどっかのスケベじじいじゃなく、あの堅物のアクセル様よ?」   「あー、31かアクセル様……」    うーん。どうなんだろうな。エンドレスで若い子が好きな男性は一杯いるけど、アクセル様は若さ重視って感じじゃないしなあ。   「おまけにこんな小柄だからますます子供みたいなものじゃない?媚薬の1つでも飲ませてコトに及ぶのもやぶさかではないけど、あれだけ体格違うと、まず挿入出来るのかって問題があるものねぇ」   「っげほっ、ちょっと!昼間っから下ネタかまさないでちょうだい。想像しちゃったじゃないの」   「あら失礼。──そうだわ、持ってきたわよこれ」    ごそごそと袋から取り出したのは、招待状である。      基本的にデビューしたばかりの令嬢には、先行してデビューした令嬢たちから社交のノウハウを伝授するためお茶会の誘いが大量に届くようになっている。    大体3ヶ月程度だが、それまでに付き合いを広げて仲良しを作って後はご自由にというシステムだ。    会社で言う新歓コンパみたいなもんだろう。  私も去年数回は出た記憶がある。    今回持ってきて貰ったのは、私に届いてる物とミーシャに届いている物とを照合して、同じ招待を受けている令嬢のところへ一緒に参加する為である。   「……結構マメな人はマメなのねえ。ほら、この人もこの人も」    世話好きな人はどこの世界にもいるものだ。    2人とも被る人が7人いて、そのうちお互いに日付の都合がいい人が3人いたので、とりあえずはこの3人のお茶会からにしよう、ということになってその日は解散する事にした。      私もいつまでも引きこもってはいられないのだ。              
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