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「まあ本当になんて光栄なのかしら!ルシア様がお茶会にいらして下さるなんて!  ……あら、そちらはミーシャ様ですわね。存じませんでしたわ、ルシア様のご友人様だったのでしょうか?」   「ごめんなさいねシルビア、ご無沙汰してしまって。  私もここ1年近くバタバタしていて……可愛い甥っ子もなついてくれるものだから、つい嬉しくてお姉様の所に通っていたりもしたものだから……これからはなるべく外にも出ようと思っているの。  それとミーシャは最近かなり親しくさせて頂いているの。今日はたまたま2人ともシルビア様からお誘いを受けていた事を知って、ご一緒させて頂いたわ」   「左様でございましたのね。ようこそミーシャ様。私とも仲良くして下さいましね?」    シルビアが微笑んだ。   「こちらこそ、よろしくお願いいたします」   「こんなところで立ち話も何ですから、さあどうぞお入りになって」          本日は晴天なり。      と言う訳で、私とミーシャはシルビア嬢のお茶会にやって来ていた。    シルビア・ウエスト伯爵令嬢は私の1つ年上の、ちょっとふくよかな、性格も穏やかで万事おっとりしている裏表のない女性だ。私のデビュー後は何度もお茶会に誘ってくれたいい人。    相思相愛の婚約者がおり、来年には式を挙げられる予定という、幸せ一杯の言わば【安全パイ】である。    また世話好きでネットワークも広く、人の悪口を言うところなど見たことも聞いたこともない。敵も作らない優等生タイプ。    私の評判など耳に入っているに違いないのに、イロモノ的な目も向ける事もない。    私の社交のリハビリにはうってつけなのである。        私とミーシャ以外の招待客も、それぞれ子爵令嬢と伯爵令嬢が1人、合計5名である。    コミュ障の私が逃げ出さないで済む絶妙な人数だ。その上みんなシルビアに似て穏やかそうな方々ばかりで、私は胸を撫で下ろした。    何せこの中では私が一番爵位が高い。    いきなり変人令嬢アピールするのは今後のお茶会の招待状の数に影響するので、少しの間はボロを出さないようにしないと。    ミーシャともあちこちのお誘いに参加して、    「ズッ友だから苛めるなんて有り得ない」    と言うアリバイ工作が大事なのである。  アリバイ工作って言うのも何だけど、冤罪フラグの芽は出来る限り摘んどくに限る。      パステルカラーの花が溢れる庭園でお茶をしながら世間話をする。    今日はどんな話も興味深く、楽しそうにでも上品さを失わず聞き入る淑女とならねばならない。    そしてさりげなくミーシャとの仲良しアピールも忘れずに合間合間に盛り込む。    案の定だが物凄く疲れる。    屋敷ではほぼ作業パンツかトレーナーの上下なので、ワンピースとか着ているとどうにもスースーと足元が落ち着かない。  かかとの低いパンプスにしたが、もう爪先が痛い。     私は既に笑顔もひきつる位の疲労困憊ぶりである。   「……きゃいんきゃいん……」    シルビアと2人の令嬢が来年の結婚式のドレスをどのデザイナーに頼むかで盛り上がっているのを耳に入れながら、ミーシャに小声で弱音をこぼす。   「……ルシア、虐待されてる犬みたいに鳴くのはやめなさい。もう少しで帰れるから頑張って」   「きゅぅぅぅん……」   「私だって帰りたいけどね、コミュニティに少しは溶け込んでおかないと。私たちの未来がかかってるのよ」   「そうよね……分かってるの……分かってるんだけどね」    私は溜め息をつく。    ぼっち歴が長かったから、心の平穏のためどうしても人が複数いると距離を取りたくなる。   「ところで、シェーン様とルシア様の結婚式も来年ではございませんの?もうドレスなどはご依頼に?」    話が一段落したのか、シルビアが私を見てにっこり笑う。話をこっちに振らないで欲しい。   「……まだ来年と決まった訳ではありませんのよ?シェーン様も公務や視察などでお忙しい方ですし」   「まあ……お寂しいですわねぇ」   「でも、待つ楽しみが伸びるほど愛も深まるのではございません?」   「待ちに待った結婚式の後は、お2人の恋の炎が抑えきれずにゴオオっと燃え上がるのですわね!」   「まっ、いやですわマリー様ったらそんなはしたない」      燃え上がりません。  というかくすぶってもおりません。  来年には新たな婚約者に変わってる事を切望している私に何を仰いますやら。ほほほのほ。    令嬢Aと令嬢Bもデビューしたばかりの16歳。恋に恋するお年頃である。  中身が24まで生きてた前世の記憶がある私には、残念ながらこのピュアな感覚が見当たらない。      恋愛ってのは、自分が生きてるからこそ出来るのよ。    ……ま、前世でお付き合い経験もなかった自分が  偉そうな事を言える立場じゃなかった。うん。    そういやキス1つもした事がないわ。    シェーン様は一応政略とはいえ婚約者なんだけどな。  私はキツい印象だからなー。  そんな気持ちにもなれないんだろう。  まあだからといってあんな美形にキスとかされてもテンパりそうだからいいんだけど。   「……ルシア、何を考えてるの?」    ぼんやりしていたのかミーシャがポン、と膝を叩いた。   「え?あー、いや、考えてみたら、シェーン様とキスもしたことないなー、と思って。  このまま死ぬような事になったら、2回もモテない女で終わるのかと思うと死んでも死にきれないわ」   「──え?キスもしてないの?婚約者で?」    なんでミーシャが眉間にシワを寄せているのかよく分からない。でも美人はどんな顔でも美人。   「ほら、政略だし。あははは」    と笑って返した。   「……クソが。王族が押しが弱いとか何なの。権力ぐらい使えし。アイツもか。アイツもポンコツか!……難易度がエクストリームモードじゃないの……」    ミーシャが聞き取れないほどの小声でぶつぶつと呟いていたので、   「ごめんね、よく聞こえなかった。何?」    と聞き返すと、笑顔になった。  怒った顔もいいけど笑顔はもっと眩しいわ。   「ううん、何でもない! ルシアにコーヒープリン作ってきたのを伝え忘れてたと思って。  帰りに渡すわね。今日の疲れを癒してちょうだい」   「本当に?頑張るわ私!」    ミーシャは私に舞い降りた天使だった。    神様ありがとう。本当にありがとう!            
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