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【22】
「えんやーこーらさ~♪よっこいせーのほーらや~♪」
「こらそこの季節労働者」
「……ん?あらミーシャ、いらっしゃい」
しゃーこしゃーことノコギリで板を切っていると、背後から声をかけられた。
ライムグリーンのワンピースが華奢なミーシャにぴったりで相変わらずの美少女である。
私の「なのだ」ルックとは比べ物にならない。
まあベースがそもそも違いすぎるので勝負も何もないのであるが。
「巣箱が終わったと思ったら今度は何を作ってるの?」
「ああコレ?ちょっとトロロの運動不足解消にキャットタワーを作ろうと思ってるのよ」
食事制限をしようとすると悲しそうに泣き続けるし、母様はトロロに甘くてすぐオヤツを上げてしまう。
食べた分運動させるしかないのだ。
「あのタヌキが運動するのかしらねぇ。大体運動を元からしないからあんなむっちむちになったんでしょう?
キャットタワーが出来たからって、いきなり運動に励むと思う?」
陽当たりのいいウッドデッキで敷物のトラみたいに広がって惰眠をむさぼっているトロロを眺めて、ミーシャは首をひねった。
「ふふふ。私に考えがあるのよ」
マタタビを振りかけたローカロリーのササミジャーキーをタワーの上に置いておくのだ。
マタタビの香りに誘われてタワーを登っている内に「運動すればいいことがある」と思うようになるかも知れないし、体のお肉も締まってくるかも知れない。
見た目がプニプニしてるのは愛らしいが、健康には宜しくない。私はトロロに長生きして欲しいのだ。
「ふうん。モノでつるのね。まあそれなら上手く行くかも知れないわね」
ミーシャはしゃがみ込んで平たくなったトロロを撫でると立ち上がった。
「ところで、SOSの手紙は一体なんなの?」
「ああ!そうだったわ!」
ジジを呼んでお茶を頼むと、ミーシャをテーブルに案内した。
「シェーン様が3日ほど前にこちらにいらっしゃったのだけどね、10日後に王都のデザイナーブランドの秋冬物のコレクションがあるんですって。
シェーン様がこれなら社交にもなるし、ほぼ見てるだけだから一緒に行こうって誘われて断れなくて。それでね、チケットあと2枚あるから友人でも誘えと言われて。人気があるモノらしいから一緒に行かない?
ほら、何ならアクセル様とか誘うのはどう?」
「……素直にデートしたいと誘えば良いものを回りくどい男ね……ヘタレにも程があるでしょアホシェーンめ……」
「え?シェーン様がなに?」
「──いえお気遣いのある方よねシェーン様は。ワザワザ婚約者の友人にまでそんな人気のチケットを用意して下さるなんて、なかなか出来ないわよねー」
ジジが運んできた紅茶にはレアチーズケーキが添えられていた。
「ルシア様、ミーシャ様から私たち使用人にもケーキを戴きました。いつも本当にありがとうございます!」
「気にしないで下さいね。手間はそんな変わりませんから。いつも美味しいお茶をご馳走になってますし」
頭を下げて戻って行くジジは、これから休憩を取るのだろう。めっちゃ笑顔だった。
ウチの使用人はフェルナンドも含めてみんな甘いもの好きだからなー。ミーシャは常に大歓迎だろう。
「まあありがとうミーシャ!私もお礼をしたいけれど、お菓子作りにはとんと才能がないのよね。
……あ、そうだわ!自家製のベンチプレスを──」
「いらないわ」
「あ、腹筋用の足掛けベンチの方が良かった?」
「いらねってのよ。変に筋肉つけて身長が伸びなくなったら困るじゃないのよ」
「まあ、17にもなってまだ成長期があるとでも思ってるの?それにコンパクトで可愛いじゃないのよ。よっ、ミス儚げグランプリ」
「何か生命力少なそうだからそれやめて。
いくら可愛かろうが、童顔で身長まで幼いと私の好きなオッサン達にアピールしにくいのよね。
ロリコンとの区別がつきにくいし」
「ほら、チチアピールチチアピール。
ロリコンは貧乳がお好きだから」
「ああ、そうね!この無駄に重たいEカップを武器にすればアクセル様は落ちてくれるかしら?」
「ミーシャに不可能はないわよ。だから一緒に行きましょう。お誘いは付き合ってあげるから。ね?」
「……何でそんなに熱心に誘うのよ?」
「シェーン様と2人きりだと困るからよ」
「……長い付き合いでしょう?」
「ほら、2人っきりだと何だか社交というよりデートみたいじゃない。婚約破棄する前にそういう見せびらかしみたいなのをするのはちょっとねえ。
他のご令嬢から要らぬ恨みを買いたくもないし」
「ふーん。まあ私はコレクション見られるのは嬉しいからいいんだけど」
「ありがたいわー、ほんと持つべきものは同じ前世を持つ親友ね。じゃ、明日にでもアクセル様に会いに行きましょう。大丈夫、一応王子の婚約者の友だちだから断られはしないわよ。ま、後の進展はミーシャ次第だけどね。ぐいぐいっと期待してるわ!」
「……まあ頑張ってはみるけれど」
ミーシャも来てくれるなら心強い。
最近は社交もそれなりに対応出来るようになったし、ゲームで苛める予定だったミーシャとはマブダチ認定になってるし、この流れならば、私の断罪なくなるかも知れないわ。
私はちょっと浮かれていたのだ。
だから、少し油断していたのかも知れない。
不穏の芽は既に生まれていた事に、この時の私は全く気づいていなかった。
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