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「誕生日プレゼントは何がいいルシア?」   「いえ特には欲しいものもございませんので、お気持ちだけで結構でございます」          私の誕生日パーティーは、少数精鋭というか気心が知れたというか、まあ正確に言えば友達が全くいないぼっちなので、こじんまりとバーネット家の屋敷内で行われた。    参加者はシェーン様と護衛隊長のアクセル様、両親と屋敷の使用人と飼い猫のトロロである。    身内以外は超VIP。  どちらが主役なのか、くつろいでいいのか緊張していいのか判断に迷うところである。      トロロはキジトラの雑種で、半年前に我がバーネット家に迷い込んだ子である。  右手のところだけ楕円形の真っ白な模様があったので、前世で大好きだったトロロと名付けた。      ちなみにこの国には米はあるがトロロはない。      何だってそんな変な名前にしたんだい?と父様と母様に尋ねられたが、あー前世でよく食べてまして、ご飯にかけて食べるとこれがまた美味しいんですええ、ワサビを効かせると最高で、などと言えば婚約破棄は出来ても屋敷内に生涯幽閉が確定してしまうので、   「前に読んだ小説に出て来た可愛い妖精の名前ですわ」    とか微笑んでうやむやにした。    メルヘンの世界には大人は立ち入らないという不文律があるので、こういう花畑の乙女っぽい事を言っておけば問題ない。      栄養失調気味でガリガリだったトロロも、侯爵家の豪華な餌で毛並みも艶やか、肉球も艶やかの丸々とした福々しい子に成長した。    トロロというよりスライムに近い。むっちむちだ。    前世の私のようなボディーは健康にもよろしくないので、ルシアズブートキャンプで強制スリム化を狙ったが、何しろ運動が嫌いな上にやる気もない。    軟体動物のように持ち上げてもたるんたるんで、無理やり動かしてストレッチさせるも、油断してると母様にすり寄っては、   「にゃぁご」    と肉球でてしてし叩き、   「もうっトロロったら可愛いんだから~っ」    とドンペリを貢がせるホストのごとく、トロロに甘い母様に己の魅力を振りまいてはせっせとオヤツを得ているので諦めた。    ご飯を減らそうとしたら、虐待されているかのごとく大きな声で切なそうに鳴きわめくたちの悪さである。  許してしまう自分も反省が必要だ。        そして私は食事とケーキを皆で戴いたのちに、頼みもしてないのに「後はお若い方々でほっほっほ」みたいな状態でシェーン様と書斎で2人きりにさせられている。     「だが、婚約者の誕生日に何も贈らない訳には行かないだろう?」    いつものごとく婚約者を見るというには甘さの一切見当たらない眼差しで私を見るシェーン様だが、何でか2人の時はソファーに体がくっつく程の近距離に座りたがるし手も握りたがる。  だが、私は知っている。      実はシェーン様はものすごく視力が悪いのだ。      先日、執務室に行った時にシェーン様が厚みのあるガラスの眼鏡をかけていたのをチラッと見てしまったのである。    普段はあんなコントのような眼鏡はかけられないだろうから、書類仕事の時にしか使ってないようだ。    この美貌にあの眼鏡は結構衝撃的だった。    お陰でいつも睨んでるような目付きをしてるのは焦点を合わせるためなのね、というのが分かってより怖さが薄れた。    だからこの密着と手を握りたがるのは単に目を疲れさせないとか、目が悪いのを知られたくないのであろう。  色気も何もない。  私にとってはほぼ介護に近い。    ただ、破壊力抜群の顔なので、余り近くに来られるのはなるべくご遠慮して頂きたいものではある。     「……!!あ!ありました欲しいものっ!婚約──」   「婚約破棄は却下だ」    食い気味に返されて、私は肩を落とす。   「……じゃあ何も要りませんわ」   「──なあルシア、いい加減に諦めたらどうだ?」    シェーン様がぽんぽん、と軽く肩を叩きながらうなだれた私を覗き込んだ。   「諦めたくないのです……」    自分の命は。       「……そうか。18になったら結婚式の準備だぞ。それまで頑張るのはいいが、ダメだったら潔く諦めてくれ」    ぎゅうっと握った手を離すとシェーン様が立ち上がった。     「……かしこまりました……」        シェーン様とアクセル様の乗った馬車を見送りながら、私は深く溜め息をついた。     (もう最後の手段しかないのかなぁ……)        ミーシャ・カルナレンが最後の砦である。          
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