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【59】
「ルシア、昼食は用意してあるから、えーと……一緒に、食べないか?」
一緒に、というところではにかまないで欲しいわキラキラと眩しいから。ラメでも撒いてるのかしら。
私は寝室にある浴室でシャワーを浴びて、屋敷から届けられたジャージー素材のグレーのツーピースに着替える。
股関節は痛いモノの、思ったより体が汚れてなかったのが不思議だった。
たくさん中出しされたし、体の上にもかけられて吐精した物をなすりつけられた気がするのだが。
「私の精であのクソ共の触った所を浄化しよう」
といって触られた記憶もない腹部や足にまで手で広げてたような……。
むしろシェーン様の方がえらく汚していたと言っても過言ではなかった。
よく考えたら記憶にあるだけで7回8回は吐精していたのに、洗っていても私のアソコから白濁が溢れるような事もなかった。
私はシャワーを出てから、
「シェーン様……あのー、コトの後にタオルか何かで拭いて下さったのですか?」
と聞いたら、
「いや、湯船に湯を張って、ルシアの髪の毛以外は全て丁寧に石鹸で洗わせて貰った」
と言われた。
「まあ申し訳ありません。寝ているのを運ぶのは大変でしたでしょうに」
と頭を下げる。
それよりも意識が無くなるまで体力を奪うのを止めてくれれば良い話なのだが。
「私はそんなにひ弱ではないぞ? ルシアの一人や二人全く問題ない。それに……」
「それに?」
「……愛する人と一緒に湯に浸かると言うのは、あんなにも幸せだとは思わなかった。
あのすぐ逃げたがるルシアが、私の腕の中で無防備に体を預けてくれるんだ。夢のような時間だった。
特に少々中に吐精し過ぎてしまったので、トロトロと太ももを伝わって流れる私の名残がまた堪らなかった」
目の縁を少し赤くしながらも、無表情Cでコクコクと頷いているシェーン様があまりにも可愛いので、好き勝手しおってと叱る気持ちが失せてしまい、
「……ひとまずその官能小説のような語りを止めて欲しいとお願いしても?」
と言うだけに止めた。
そして、やたらと広い食堂に案内されると、昼食を食べるだけなのにメイドたちが勢揃いしており、私に対して拝むようにしている人、ハンカチで目頭を押さえる人、生暖かい眼差しを注ぐ人など、明らかに昨夜の状況を知られているとしか思えない。
メイドたちに情報のパンデミックが発生している。
処女じゃなくなりましたー、という恋人以外に通常知り得ないネタがサラダバー並みに盛り放題になっているではないか。
シェーン様ん家のメイドさんたち怖い。
この羞恥心を煽る状況の中で、膝の上席を強硬に主張するシェーン様の強心臓に感心しつつも、食べづらいからと頑なに固辞してテーブルの椅子に座る。
しかしどこに視線を向ければいいか分からず、じっとホワイトソースの載ったオムレツと茹でたブロッコリーの皿とバゲットの載った籠に視線を落としていると、シェーン様が私に話し掛けた。
「ルシア、腹が減ってるだろう? 食べられる元気はあるか?
いや無理をせずとも私が食べさせ──」
「いえ全然問題ありませんわ! 頂いてもよろしいですかしら?」
放置すると生きた心地がしないので、開き直ってナイフとフォークを掴んで食べ始めた。
「……とっても美味しいですわ」
「そうか。それは良かった。……本当だ。可愛いルシアと一緒に食べるといつもより美味しく思えるな。食材に魔法でもかかるのだろうか」
シェーン様が昨夜から大分喋るようになっていたが、出てくる言葉に甘さが過多になっており、今までのシェーン様とは別人だ。
「シェーン様……何やら普段よりよくお話しになっておられますわね」
「……そうだな。男の愛情は言葉より態度で示すのが大人の男だとグスタフに言われて努力していたのだが、ルシアには全く通用してなかった事が分かったからな。
これからは言葉でもどんどんアピールせねばと誓いを立てたのだ」
「……左様でございますか」
私がそういった恋愛アンテナに疎いせいで、シェーン様の地道な努力をポイポイしていたのか。
それは申し訳ない。
申し訳ないとは思うけども、これを普段もやられたらたまったものじゃない。
ミーシャやリズがいるところで、
「ルシアは今日も愛らしいな。いやいつも可愛さが溢れているから当然だが」
などとやられたら、魂を抜かれて浮遊霊になりそうだ。砂糖を吐くのは2人っきりの時だけにして貰うように話し合いが必要だ。
「……ああっ!」
私は肝心な事を思い出した。
「シェーン様、昨夜の男たちは最初はミーシャも標的にしているような話をしておりました!
私がたまたま1人で買い物をしたから先にした、と言う話も聞きましたわ。
綺麗な女や妬まれるような女は気をつけないといけない、というような事も言っていたのですが、何か見た目や地位などに恵まれた若い女性に狙いをつけて襲うような計画的な犯行をする集団なのでしょうか?
私が妬まれるのは、シェーン様の婚約者だからだと思うのですが、ミーシャやリズは私よりよほど美しいですし、心配なのです」
「……ミーシャより神の奇跡のような可愛いルシアを……後回しにしようとした、だと?
あいつら目が腐ってるのか?
なるほど、竿だけではなく目まで不要なのだな」
シェーン様の目が鋭くなる。
「いや大事なのはそこじゃなくて!
そこの価値観は人それぞれですから。でももし、捕まっている人たち以外にも仲間が居たらと思うと……」
2がメインの世界なら、ストーリーの強制力がまだ働くかも知れない。リズも2のヒロインだけあって護りたくなるような可愛さがあるが、ミーシャは特にヒロインとして半端なく可愛いのだ。身びいきではなく完成度が高すぎる。
せっかくアクセル様にラブレターまで書いてるのに、ミーシャの恋路を妨害する流れがあるなら私が何としても断ち切るわ。
「友人を気にするのは尤もだ。急ぎ警護をつけるように手配するから安心しろ」
「ありがとうございます! シェーン様!!」
私はガシッとシェーン様の手を掴みぶんぶん上下に振った。私ごときの鍛え方ではミーシャやリズを守り切るのは難しいと悟っていた。
自分一人も守れなかった程度のトレーニングは、これから要改善である。
「そうだわ、私は早速ミーシャやリズの所に行って、身辺を警戒するよう伝えなければ。
シェーン様、本日はこれで失礼いた──」
ナプキンで口を拭い立ち上がろうとした私の腕を掴み、シェーン様はぐぐぐ、とまた椅子に座らせる。
「昨日あんな事件があったのに、1人で帰せると思うのか? 私が送る。
捕まえた奴らの尋問もせねばならんしな」
「でも今日はお休みなのでしょう? せっかくの大事なお休みを……」
「ルシアが帰るのなら、私の休みの予定など先程メモした下着をポケットルシアの為に縫う事ぐらいだ。気にするな」
「そこは物凄く気になりますし是非とも止めて頂きたいのですが」
「……止めたら、デートを週に3回にしてくれるか?」
「いや、流石にいきなり増やしすぎでは?」
「だって全然会えてないではないか。
トータルすると今まで月1デートもやっとのような状態だった……正確には0.842倍だし、ルシアはデートとも思っていなかったようだが……せめて結婚するまでには1.0倍を越えたいという悲願がある」
就職難の有効求人倍率みたいな事を言うな。
つうかきっちり計算するな。
確かに逃げまくっていたのは私だ。
でも美貌も権力も剣の腕も立つ優しいシェーン様がこんなに私に執着するのは、つれなくされていた反発からなのでは、却って頻繁に会う事で「追いすがるほど大した女でもなかった」とか思ってしまったら困るのだ。
既に私がシェーン様を愛してると自覚してしまっているのだから、今更後戻りは出来ない。
「……週2で」
「着替え用のワンピースも縫う事にする」
「ちょっとシェーン様もう!
……週3回も会って、もう見飽きたから要らないって言われたら困るじゃありませんの」
私はつい愚痴めいた本音がこぼれた。
少しの沈黙の後、
「──私がルシアに飽きたら困るのか?
婚約破棄したがっていたのに?」
と聞き返すシェーン様の声が弾んでいるように聞こえてうつ向いていた顔を上げた。
無表情ではなく、満面のとは言えないまでも本物の笑顔である。
これは相当なご機嫌モードであるという証明だ。
神々しくて目がつぶれる。目がー目がー。
「お分かり頂けましたら週2でおねが」
「あのルシアが! ルシアが私に飽きられたら嫌だと! ……私はそろそろ死ぬのだろうかいや死ねない!」
身を震わせているシェーン様は、笑顔なのに目には涙まで浮かべている。
メイドたちの一部は号泣と言ってもいいレベルで泣き出したし、真っ赤な顔で拍手をしながら、
「シェーン様! やりましたわね! 今夜は腕によりをかけてご馳走作りますわ!」
とメイド長とおぼしき年配の女性が叫んでガッツポーズをしていた。
いえあのー私、そろそろ本当に帰ってもいいですか?
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