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もうひとつの道程
俺が5歳になったその日、村が襲われた。
襲ってきた何処かの国の兵士達は『禍の子』を探しだし殺す、と言う名目だったようだが、無抵抗な村人達をも隠し立てしているとして容赦なく切り殺していった。
この村は精霊の力を受け継いで特別な力を持つ銀の髪の者達の住む村だった。
その力を悪用されない為、他の者との血を受け入れない為、この村はひっそり身を隠すようにして、森の奥に幻術をかけ結界を強化して存在していた。
その中で俺の父親だけが違う土地からやって来た者だった。つまり余所者と言うわけだ。
父が国の仕事として現地調査で各国をまわっていた頃、この森に迷い込み、10人程いた調査隊は幻術で散り散りになり、父だけが村人達に捕らえられたのだという。
その時に知り合った母と父は、お互いが一目見て一瞬で恋に落ちたのだと言っていた。
村長である母の父親からは反対されたが、娘を連れ去られるくらいならと、この村で定住するという条件付きで結婚を許してもらえたのだそうだ。
それから母は何度も子を宿し、その度に魔力が大きすぎたからか、子がお腹の中で亡くなるということが続き、そうして4度目にしてやっと俺たちが無事双子として生まれた。
念願の子供に、父と母は俺たちを大切にしてくれた。子供を生むことを反対していた村長である祖父や祖母も、俺たちに沢山の愛情を持って接してくれていた。
それがあの日、一瞬にして終わりを告げた。
父に抱え上げられ逃げ、気づけばアシュリーと母の姿が見えなくなっていた。
それから父は逃げながらも探し続け、行方が分からなくなった母とアシュリーを見つけ出すためにオルギアン帝国へと戻って来た。
その時俺は初めて父がオルギアン帝国の皇族だと知ったのだ。
父はオルギアン帝国の第三皇子だった。
優秀な人物として次の皇帝継承の派閥争いの渦中にいたのだが、行方知れずとなり父の継承は無くなったものとされた。
しかし、父が帰って来たことでまた派閥争いが勃発しそうだったのを、父は継承を辞退すると申し出た為、この争いから逃れる事ができた。
父からすれば、そんな事より母とアシュリーを探す事に力を入れたい、と思ったようだが、継承権が無くなったとは言え、仕事が無くなる訳ではない。
部下に頼んで母とアシュリーを探す調査隊を派遣し、自らも空いている時間や休みの日には率先して探しに出掛けた。もちろんその時は俺も同行した。
そんな父が突然倒れた。原因は今も不明とされていたが、恐らく毒でも盛られて殺されたのだろう。誰がしたのかは大体検討はついているが、証拠が無いため糾弾出来ずにいる。しかし、俺は今もソイツを調べて機会を伺っている。
父は最後まで譫言のように、母とアシュリーを呼び続けて天へと還ったのだ。
それからは俺が引き継ぐようにして、一人で探す事にした。もちろん調査隊にも探させているが、旅に慣れたアシュリーを見つけるのは容易ではなかった。
アシュリーを求めて探しながら、あの石を探す事も同時に遂行する。
宝石商にも声をかけ、鮮やかで大きめの石を見つけたら持ってくるように頼んでおいた。その中で、赤の石を宝石商が持ってきた商品の中で見つける事が出来たのだ。
宝石商は鑑定しても高価な物ではないとは分かったが、不思議と俺に持ってきた方が良いだろうと思ったそうで、タダ同然で赤の石を差し出してきた。
紫の石は、アシュリーを探しに行って立ち寄った村で見つけた。
そこには何かに導かれているような感覚で、何の特徴も無いような村だったが気になって仕方がなくて、思わず足を踏み入れたのだ。
気になる方向へ進んでいくと、その村の外れに小さな溜め池があった。
この溜め池の中にあるかも知れない、と思い、村長に何とか承諾を得て池の中を隈無く探したのだ。
池の水を全て風魔法で浮かせて、底にあった淡く光る紫の石を手にする事ができた。水は光魔法で浄化してから池へと戻した。池が綺麗になったと村人からは感謝されたな。
そうして手に入れた紫の石。俺は短剣を持ってはいないが、あの短剣が無くとも効果は発揮できる。
短剣に嵌めた方が効果は上がるらしいが、手元に無いので仕方がない。
村を出た所で、紫の石を握り締めて自分の体に宿るように目を閉じて念じると、紫の石は光りだして、俺の体全体を包み込み体の中へと浸透していった。そうして俺は紫の石の力を得たのだ。
それが一番嬉しかった。これでやっとアシュリーに会える。幼い頃別れたままだが、アシュリーは前世の頃とよく似た容姿をしている。それは俺自身もそうだが、だから大人になったアシュリーを思い浮かべるだけで空間移動はできる筈だ。
そうやって空間移動でやって来た場所に、アシュリーは倒れていた。
腹と腕に矢を受けて、グッタリした状態でそこにいたのだ。
それを見て俺は心臓が止まるかと思う程に動揺してしまった。
やっと見つける事ができたのに、やっと会えたのに、何故こんな事になっているんだ?!
慌てて回復魔法を施す。けれど傷が治る気配がない。回復魔法が効かないのか?!
前世では俺自身が回復魔法が効かなかった。理由は分からないが、今世ではアシュリーがそうなのか?!
アシュリーを抱き上げて、すぐにオルギアン帝国の帝城へと移動する。医師たちを集め、念のため高度の回復魔法を使える者も何人も呼ぶ。それからすぐに手術を行い、刺さった矢を抜き出し止血をする。
抜いた矢は矢尻を調べる事にする。何処かの兵士ならば、その国の特徴があるかも知れないからだ。
血の気のない顔色のアシュリーを見て、俺も何度も回復魔法を施すが、高度の回復魔法使いでもアシュリーの傷は治らなかった。
頼む、無事であってくれ……!
手を握りなら、祈るように目を閉じる。
扉をノックして栗色の髪のメイド、メアリーが入ってきた。
「ルディウス様、お茶をお持ちしました。少し休まれてはいかがでしょうか?」
「あぁ、メアリー……あとでいただくよ」
「あの、その方はもしかして……」
「そうだ。俺の妹のアリアだ」
「そうなんですね! やっとお会いできたんですね! ……なのにそんなふうにお怪我をされて……お可哀想に……!」
「きっとこれまでも苦労してきた筈なんだ。メアリーもアリアによくしてやってくれないか?」
「それはもちろんです! あ、ルシオ様がお呼びでした! 刺さっていた矢の事で話があると……」
「そうか、分かった」
矢の事が分かったのか?
しかし、それが何処の者であろうとも、俺は許すことができない。俺のアシュリーを傷付ける者をこのままにはしておけない。必ずこの報いは受けさせてやる……!
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