届かない手

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届かない手

 朝の光が優しく目に入ってくる。  なんか夢見てたような気がする。何の夢だったのかは忘れてしまったけど、幸せな夢だったような気がする。アシュリーと旅をしてた頃のような、多分そんな夢……  ゆっくり目を開けて、辺りを見渡して自分の家の寝室だと理解してから、もう一度夢の続きを見ようと目を閉じるけど、やっぱりその続きは見れなかった。  仕方なく起き上がって、朝食の用意をする。ゴーレムから確認してみると、アシュリーも部屋から出てきて食堂へと向かった頃だった。  昨日はよく眠れたみたいだな。けど、昨日はロヴァダ国に何の用があったんだ? 今日もロヴァダ国へ行くのか?  昨日アシュリーは空間移動をした。そうされると俺は追跡する事が出来なくなる。別のゴーレムを作って、ソイツに空間移動出来るようにしようか。  いや、そんな事をしても意味ねぇな。そうした所でどうにもならない。まぁ、こうやってコソコソ後をつけてる自体、本当はダメなんだろうけどな……  けど今は気になって仕方がない。アシュリーには悪いけど、俺はまだどうするかを決めかねている。だからもう少し様子を見させて欲しい。    自分勝手な都合を押し付けながら、アシュリーの動向を気にして俺も朝食を摂る。申し訳ない気持ちにもなるけど、こうやって同じ時に一緒に食べれてるって思うだけで、共に行動しているような感覚になって俺の心が安らぐんだ。  食事が終わって、アシュリーは宿を出る準備をしている。俺も自分の事しなくちゃな。今日は俺もロヴァダ国へ行ってみようか。あ、その前にインタラス国の孤児院に持っていく物があったんだった。  その準備をして出かける用意をする。アシュリーはもう出かけたのか?  そう思ってゴーレムと感覚を共有した。 「えっ?! なんだ?! どうなって……!」  ゴーレムから届く感覚がノイズがかかったみたいに見えづらくなってる?! 何かが邪魔をしてんのか?! 考えられるのは魔力の妨害……  けど、これはどうなってるんだ?!  アシュリーは……?!  微かにアシュリーの姿を確認できた。アシュリーは兵達に囲まれて槍を向けられていて、そこから大きく飛び上がって……    その時に矢が飛んできてアシュリーに……!  それからアシュリーの姿が消えた。  思わず手を伸ばしたけれど、それが届く事はなく……  えっ?! ちょっと待ってくれ! アシュリーはどうなった?! 何処にいった?!  最後に見えた時に、アシュリーに矢が刺さったのが確認できた……! なんでアシュリーにそんな事をっ!  すぐに空間移動でアシュリーが襲われた場所まで行く。ゴーレムがいる場所なら移動は可能だ。  そこはシアレパス国の俺が買い取った部屋の宿屋がある所から近い場所だった。  アシュリーに槍や弓を向けていた兵達は、突然アシュリーが消えていなくなったのを驚いて辺りをキョロキョロ見渡していた。    その場に俺は姿を現した。  転送陣も無いのに突然人が消え、そして人が現れた事に、その場にいた兵達は更に驚いて、何事かと驚愕の表情で俺を見る。   「お前ら……どこのモンだ?」 「な、なんだ貴様っ! どこから現れた?!」 「聞いてるのは俺の方だろうがっ!!」  一人一人の目をしっかり見つめて、その場から動けなくさせる。それを見た術者が慌てて俺の魔力や能力を封じる呪文を唱えている。これにアシュリーはヤられたか?  その術者は6人いて、魔力と能力も封じるように呪文を唱えているが、ソイツらに一斉に雷魔法を食らわした。一気に術者達はその場に崩れ落ちる。  長年生きてきて、俺の魔力や能力はとんでもなくハネ上がっている。こんな術者達には簡単にはヤられたりしねぇ。  術者達が突然倒れたのを見た兵達は、動けずに逃げる事も出来ず、ガタガタ震えだした。  アシュリーを傷つけたコイツらを、俺は絶対に許さない。  どうすることも出来なくて、その場にただ立ち尽くす兵達の元まで歩いて近づいていく。 「おい。まだ聞いてなかったな。お前達はどこの国の兵士なんだ?」 「簡単に……く、口を割るとでも、思っているのか……っ!」 「面倒だな……」  兵隊長と思われる男の頭に右手を置いて、その能力を解放する。  すると男は途端に俺に従順になる。俺の右手は人を操る事ができるのだ。 「で? お前達はどこの国の兵士なんだ?」 「はい、私達はロヴァダ国の兵士です。」  「ロヴァダ国がなんでさっきの旅人を狙ったんだ?」 「はい、アイツは『禍の子』だからです」 「おい、アイツなんて言うんじゃねぇ!」 「は、はい! 申し訳ありません!」 「それで、お前らの言う『禍の子』って何なんだよ?!」 「我が国の偉大なる預言者ヴィクトール様が予言されたのです。『禍の子』はこの世界の平和を崩壊させるのだと。だから『禍の子』を滅しないといけないのだと」 「それがさっきの旅人だってのか?!」 「はい、そうです」 「なんでそうなるんだよっ?!」 「昨日あの者がロヴァダ国内にやって来ました。それをヴィクトール様が察知したのです。その気配をたどり、この街までやって来ました」 「どうやって気配をたどれたんだよ?」 「気配を感じたヴィクトール様は、現在その街に向かっております。近くにおれば気配をたどる事が出来るのだそうです」 「そうか……じゃあ、俺をその預言者の元へ連れて行け」 「はい」 「隊長! そのような事は……っ!」 「コイツも面倒だな」  俺の魔眼には様々な効果がある。俺の異能の力、左手で触れると触れた者から光を奪い、能力が眼に宿る、といったものだ。今は能力制御の腕輪をしているから、無闇矢鱈に奪うなんて事はしないが、魔物からも奪えるので一時期能力を上げるために奪いまくったお陰で、俺の眼はかなりの能力が宿ったのだ。  幻術・魅了・邪眼・千里眼・鑑定眼・呪術・麻痺・石化とかが使える。他にも大概の事は眼だけでどうにか出来る。もちろん殺す事もだ。    そして眼だけで操る事も可能だが、元々の能力である右手を使う方がより従順になってくれる。けどこの能力はなるべく使わないようにしていた。って言うか、使いたくはなかった。  人を簡単に操って従わせるなんて、それは人としてどうかと思っていたからだ。  けれど、それよりも俺はアシュリーを攻撃したコイツらが許せなくて、人としてとかそんな事はどうでも良くなった。    アシュリーを傷つけたらどうなるのか……  思い知るが良い……!     
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