預言者の元へ

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預言者の元へ

 シアレパス国の国境の近くの街で、アシュリーはロヴァダ国の兵士から攻撃された。  それを俺は助ける事が出来なかった。  アシュリーは空間移動で何処かに行ってしまって、その後を追跡する事は出来なくなってしまった。  俺はアシュリーの気配を探るべく、意識を各地にいるゴーレムへと飛ばしていく。俺の意識からアシュリーを認識させて、見付次第連絡するようにしておく。  アシュリーが心配だ。  アシュリーに矢が刺さった……!  大丈夫なのか?!  なぜ俺はちゃんと見ていなかった?!  いや、そもそも俺はアシュリーには会わないようにしていたんだ。それはこういう時に守れない、という事もあるって事だったんだ。  なのに俺はアシュリーを一人にしたまんま……!  アシュリーの為だとか言いながら守る事もせず、一人で寂しい思いをさせて、挙げ句の果てにこうやって傷つけられて居場所も分からなくなって……!  自分の不甲斐なさに腹が立つ。けど、今はそれよりこのロヴァダ国の兵達に憤ってしまう。  アシュリーが何をしたっていうんだ? 誰も傷つけていないし悪い事もしていない筈だ。そんな人じゃない。アシュリーはそんな事をするような人じゃないんだ。  それを予言だか何だか知らねぇが、国から何人も兵士を出して殺しに来るとか、そりゃあんまりだろ?!  考えれば考える程怒りはフツフツと湧いてきて、どうにもこうにも収まりそうになかった。  だからここにいる兵達皆を支配下に置いた。これで何があっても、コイツらは俺を裏切らない。俺の言うことしか聞かなくなるのだ。   「そのヴィクトールとか言う預言者の元へ行け。それとあの旅人の事は何も話すな。分かったか?」 「「「「「はい!」」」」」  街の外に待機させていた馬に兵達は乗り、その場から去って行った。その兵達に、アシュリーにつかせていたゴーレムをつかせておいた。これでアイツらが何処に行っても、俺もその場所まで空間移動で行ける。    俺は一頻り各地にいるゴーレム達と感覚共有し、アシュリーが何処にいるのかを探す。    大丈夫だよな? 矢は腕に当たってた。けど他は? 他にも当たったのか見れなかった。  アシュリー、回復魔法は使えるのか? それを自分に使う事は出来ているか?  頼むから……頼むから無事でいててくれ!     俺の事を嫌いになっても、思い出さなくても構わねぇ! ただ幸せに生きててくれたら、俺はそれだけで良いんだ!     頼む……  俺からアシュリーの存在を奪わないでくれ……  やっとなんだ……  やっとこうやって俺のいる世界に生まれて来てくれたんだ……  なのにまたあの笑顔が見られなくなるとか、もうそんなの耐えられねぇんだって!   いや、いずれは俺を置いて天に還るだろうけど、それはまだ早すぎんだろ?!   そんな事を思いながら、焦る気持ちでアシュリーが行った場所へ行ってみる。とは言っても、俺がアシュリーを見つけたのはほんの数日前だ。その間しか、アシュリーが行った場所を知る事はできない。  けど何もしないよりは良い。とにかく何かしなきゃ落ち着かねぇ!  まず俺が買い取った部屋へ行ってみた。けど、やっぱりここにはいなかった。  次にアシュリーを見つけた、森の奥にある村へ行った。けどそこにもいない。  それからアシュリーが通った森の中や野宿した場所、ロヴァダ国のあの寂れた街にも行ってみたけど、アシュリーの姿を見つける事は出来なかった。  気づけば俺の体は震えていた。  こんなにアシュリーを失う事が怖いって、また思い知らされる事になるなんて……    やっぱり俺が傍で守ってやれば良かったか?  知らない間にこうやって攻撃されるくらいなら、俺の傍においておいた方が良かったか?  抱きしめて離さないようにしっかり繋ぎとめて、共にあったあの頃の様にいつもいつまでも傍にいて……  けどそうやって、更にアシュリーに危険が迫る事になったら? 俺が関わる事でアシュリーは本当に幸せになれんのか?  考えても考えても、まだ答えは出ねぇ……    そんな事を考えながらも、俺の意識を各地にいるゴーレムに飛ばす。とにかくアシュリーが無事かを知りたい。探し出したい。まずはそれからだ。  そしてあれから3日経ったけど、俺はアシュリーを探し続けたが見つける事は出来なかった。    気だけが焦っていく。  アシュリーは大丈夫だよな? いや、きっと大丈夫だ。大丈夫なはずだ。  そう自分に言い聞かせて、何とか俺は自分を保っていた。  シアレパス国の街から移動した兵達は、やっと預言者の元へたどり着けたようだ。  ロヴァダ国には転送陣がない。あれはオルギアン帝国の専売特許だから、属国以外の国には使う事はできない。  だから移動に時間が掛かってしまうのだ。  ロヴァダ国のとある街でその預言者は待機していたようだ。  その場所に着いて、預言者に兵隊長が会う手筈を整えたのを確認してから、俺は空間移動でその街まで行った。  預言者はこの街一番の高級な宿屋にいた。その場所に兵隊長の後ろに姿と気配と音を消して俺も一緒に行く。  その宿屋は全て貸切にしてあって、そこには護衛の者や従者や使用人がすっげぇ大人数いた。  見える範囲でも100人はいるな。  宿屋の最上階に預言者はいるようで、そこに行くまでにも何人にも兵隊長は質疑応答をされていた。兵隊長って位だから、ある程度は地位が高いんだろうと思うけど、それでも預言者を危険に晒したくないのか、厳重な守りを徹底しているようだった。  質疑応答は兵隊長の身の上に関する事を主に聞かれていた。入れ替わっていないかを確認する為か、操られているのを知る為か。  いや、操ってはいるが、自分の意思は残るようにしている。完全に俺の言う通りしか言えなかったり行動出来なかったりすると、途端に疑われる事になってしまうからだ。  俺の従順な下僕的な存在になって貰っているので、兵隊長はこの質疑応答は難なくクリアーして預言者の元へと近づいて行く。    最上階へと案内されて、兵隊長は進んで行く。その後ろを俺も一緒について行く。  預言者がいるであろう部屋の前まで来て、兵隊長が扉を開けようとしたその時、両横に立っていた護衛の二人に持っていた槍で、兵隊長はいきなり突き刺された。  それは心臓を一気に貫いていた。  短いうめき声を一つあげた後、兵隊長はその場に崩れ落ちた。  なんだ? なんで兵隊長を身内が殺す?  もしかして予言かなんかで、俺が操ってんのが分かったとかなのか?    槍を持って辺りをキョロキョロ見渡している護衛の兵士。なんだ? 俺を探してんのか?  その護衛の瞳をしっかり見てやる。俺の事は見えてない筈の護衛の兵士は、その場で固まったように動かなくなった。  その様子を見て慌てて駆けつけて来た者達全員を雷魔法で感電させた。大丈夫だ。安心しろ。殺しちゃいねぇ。気絶させただけだから。  それから結界を張って、部屋には誰も近寄らせないようにした。これで邪魔者は無くなったな。  アシュリーを『禍の子』と言った預言者……  その(ツラ)、キッチリ拝ませて貰うからな!
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