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 朝の光が優しく目に届いて、私はゆっくりと目を覚ます。  そこにはまだ眠っているディルクがいた。  私をしっかりと抱き包んでいて、ディルクの体温が私を温めてくれてるんだって感じられて凄く心地良い。  ディルクの頬をそっと撫でてみる。スベスベだ。髪もサラサラで、手触りが凄く良い。人に触れるって良いもんなんだな。手で感じる感触だけでも、心も癒されていく感じがする。  そうやって撫でていると、その手を握られた。 「あ、ディルクごめん、起こしちゃった?」 「こんな起こし方なら毎日でも構わないな」 「ふふ……おはよう、ディルク」 「おはよう、アシュリー」  こんなふうに始まる一日がある事を、私は何年も忘れていた。  こんなふうに出来る日を夢見て、私はディルクを探し求めていたのかも知れない。  そんなふうに思っていると、ディルクが不意に私に口づけてきた。 「え……ディルク……?」 「おはようのキスだ。これくらい構わないだろう?」 「え? うん……でも……」  そう答える私にまた、ディルクは口づけてくる。そのまま私に覆い被さるようにして、何度も熱く唇を重ねる……   「待って……ディルク、私たちは……ん……」    何も言えなくなる……ディルクの唇は私を何も言わせないようにして、それから口の中で絡み合うようにして……  ディルクの事は好きだ。大好きだ。愛しているし、ずっと一緒にいたいって思う。  けど……! 「姉ちゃ! おはよう! 朝食一緒に食べ、よ……」 「あ、ウル……!」  ウルが扉をノックもしないで寝室に入ってきたから、思わず慌てて起き上がる。でもいきなりそうしたから、下腹部に痛みが走ってしまった。 「うっ……!」 「アシュリー、無理をするな!」 「姉ちゃ、大丈夫?!」 「あ、うん、だ、大丈夫……」  ウルに何とか笑顔で答える。それからディルクに支えられてゆっくり起き上がる。  その後ディルクは着替えてくる、と言って寝室を出ていった。 「なぁ、姉ちゃ……その、えっと……今……その……ディルクと……」 「え? あ、ディルクがね、私を抱き起こそうとしてくれてたところだったんだ! なんか、変な誤解されちゃったかなっ!」 「え?! あ、うん、そうやんなぁ! ディルクと姉ちゃは双子の兄妹やもんなぁ! ……そうやんなぁ……?」 「うん……」 「でも……」 「え?」 「ううん、なんでもあらへん! あ、ほら、姉ちゃも着替えて! 3人で朝食たべよ?」 「あ、うん」  ウルが寝室から出て行って、私は自分の部屋へゆっくり歩いて行った。  さっきのはどういう事なんだろう……ディルクはどういうつもりなんだろう……? 前世で私たちはお互いを双子の兄妹と知らずに知り合って、そして愛し合った。今も私はディルクを求めているし、かけがえのない存在である事にはかわりない。  だって私の半分なんだもの。私が求めるのは当然で、求められるのも当然で……  だけど……  着替えが終わって居間に行くと、既にディルクとウルがいて、テーブルには朝食が並べられていた。  さっきの事を払拭させるように微笑んで、それから席に着く。ディルクは何事も無かったような感じだし、気にしてるのは私だけみたいだ。 「なぁ、ディルク、今日はどこに行くん?」 「そうだな。アシュリーは行きたい所とかあるか?」 「え? 行きたい所……あ、うん、ある! イルナミの街に行きたい!」 「イルナミ……インタラス国の街か?」 「うん! 前世で行った事のある街が今どうなってるのか知りたくて。あまり大きな街とかに行かなかったから、イルナミじゃなくても街に行ってみたいかな!」 「あたしはどこでも構わへんで?」 「そうだな。ではイルナミの街に行くか。たしかあの街の近くにダンジョンがあったから冒険者は多いと思うが、アシュリーはそれでも大丈夫か?」 「うん、大丈夫だ!」 「ふふ……姉ちゃ、嬉しそう!」 「うん、嬉しい! 行きたい所に行けるって、凄く楽しみじゃないか!」 「今まで旅してたんやったら、行けたんちゃうの?」 「あ、うん……でも、その時は母も一緒だったから……」 「お母さんが一緒やっても行けたんちゃうん?」 「そう、だけど……その……母は、私が行こうとする所は悪い事が起こるって思ってたみたいだから、私が行く場所を決める事は無かったんだ……」  「え? そうなん? なんでそんな事……」 「あ、それでも、母が亡くなってからは一人で色々行けたから、全然問題なかったんだ!」  それでも母から何度も 「お前は人様に迷惑しか掛けないのだから、人の住む場所へ立ち寄ってはいけない。そんな資格等ない」 と言われた事が気になって、私は村や街へ立ち寄る事を躊躇した。  でも旅では慣れた私の方が何でも体よくこなすから、母としてのプライドは(ことごと)く崩れていったんだろう。そうやってより、私は母から嫌われていったんだ……  母がいなくなってから少しずつ、母から言われた言葉の呪縛から解放されるようにはなってきた。だから村や街へ入る事も出来るようになった。それでもまだ戸惑ってしまうけれど……  幼い頃は、私を置いて村や街へ行こうとする母の後ろを泣きながら、謝りながら、必死で走ってついて行ったな……   「アシュリー? どうした?」 「姉ちゃ?」 「え? なに?」 「どうしたん? なんで泣いてるん?」 「え……? あ、あれ? あ、目にゴミが入ったからかな! 大丈夫だ! 泣いてるとかじゃないっ!」 「アシュリー……」  ダメだな、こんな事で心配させちゃ。泣く事なんてなんの意味も無いのに。  取り繕うようにニッコリ笑う。 「あ、このスープ美味しい! 後でレシピ教えて貰おうかな?!」 って言いながら、食事を続ける。これ以上私の事で気にさせちゃいけない。私は人に迷惑しか掛けないのだから。  それからは楽しく話をしながら食事を終えて、出かける用意をする。久し振りに自分の服を着て装備を整えた。うん、やっぱりしっくりくる!  ウルもディルクも、ちゃんと装備を整えて冒険者みたいな格好になっていた。二人共すごく様になっててカッコいい!  ウルの後ろには護衛の人がオロオロしながらついて行かせて欲しいと懇願していたけど、ウルは 「絶対に嫌! ついて来んな!」 って一喝していた。なんか護衛達が哀れに見える……  きっとディルクにも護衛とか必要なんだけろうけど、ウルと同じように強引に断ったんだろうな。  私と違ってウルとディルクは人から求められている。だから何かあれば私が助けなくちゃ。  ディルクはイルナミの街には行った事が無かったみたいだけど、その近くにあるダンジョンには偵察で行った事があったらしくて、ひとまずそこまで空間移動で行くことになった。  久し振りのイルナミの街。ワクワクする!  気が滅入るような事はなるべく思い出さないようにしなくちゃ!  ウルとディルクの顔を見てニッコリ笑って、私はイルナミの街へ向かったんだ。    
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