気になる

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 イルナミの街から近いダンジョンまで3人でやって来た。  すごく久し振りだ。昔ここに入って緑の石を求めた事がある。そしてここまで来て、緑の石はまたここに戻って来ているのが分かった。   「ねぇ、ディルク、また今度……」 「ん? どうした?」 「……ううん、なんでもない……」  緑の石はこのダンジョン内の、魔素が多くなる日じゃないと表れない場所にある。その時はディルクは来れないかも知れない。私一人で来なくちゃいけないかも知れない。簡単に約束とかしちゃダメだよね……   「アシュリー?」 「えっ?」 「俺には気を使わずに何でも言ってくれないか? アシュリーの事なら何でも知りたいし、気持ちも分かっておきたい」 「うん……えっと、このダンジョンの中に緑の石があるんだ。けどそれは4、5ヶ月に一度程しか巡ってこない魔素が多くなる日じゃないと表れない細道の先にあって、今取りに行くことはできないんだ。だから……」 「そうか。ではその日になったら一緒に取りに来よう」 「あ、あたしも来たい!」 「良いの?!」 「ハハ、もちろんだ。そんな事くらい、気にせず言えば良いものを」 「でも、ディルクもウルも忙しいじゃないか……」 「そんなんはどうにでもなるやん? 姉ちゃ、気にしすぎやわ」 「そうかな……」 「そうだ。俺はいつでもアシュリーの力になりたいと思っているんだからな?」 「うん……ありがとう……」  二人は私に凄く優しい。でも、こんなに優しくして貰って良いのかな……  ここまでして貰う価値が私にはあるのかな……  それに、私からは何も返せてないし、どう返せば良いのかも分からない。私は何も持っていないのだから……  そんな気持ちでいる私をよそに、二人は優しく微笑んでくれる。この笑顔に、私は甘えていて良いんだろうか……  そんな気持ちばかりが胸に渦巻く。  ディルクに「ほら」って手を出されて、私は右手を伸ばしてその手に触れる。ウルは私の左腕に優しく腕を絡ませてくる。  こんな事一つが涙が出そうな位に嬉しい。その優しい手を、私は取ってもいいんだな……  二人は私の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれる。こんなんじゃ時間が掛かっちゃうのに、二人共嫌な顔一つせずに私に付き合ってくれる。  頑張って少し早めに歩いてみる。 「無理はしなくていい」 って微笑みながらディルクは言うけど、私がそうしたくて早く歩くんだ。   それでもいつもより時間が掛かって、イルナミの街に着いたのはお昼を大きく過ぎた頃だった。  普通に進むと一時間で着く距離なのに、かなり時間をかけてしまった。 「アシュリー、疲れてないか?」 「うん、大丈夫」 「姉ちゃ、無理したらアカンで?」 「うん、ウル、ありがとう」 「少し休もう。昼食も摂らないとな」 「遅くなっちゃったね。ごめん……」 「謝らんでええって! こんなん、なんて事ないんやから!」 「うん……」  イルナミの街へ入って行く。石を積み重ねられた外壁は2メートル程なのは400年前と一緒だったけど、前はいなかった門番がいた。そこでギルドカードを見せると、滞在期間を聞かれる。日帰りの予定だと告げると、滞在する事になったらギルドかこちらまで来て言うように言われた。結構ちゃんとしてるんだな。  ディルクが言うには、魔物が減ってダンジョンへ行く冒険者が増え、人の出入りが多くなったけれど、その分犯罪も多くなったそうだ。  それと、ダンジョンへ行って帰って来ない冒険者も、多くはなくてもやっぱりいるらしいので、身元を知っておく必要がある、と言っていた。  帰って来ない身内を探しにきて、ギルドと揉める事も増えたからだ。  門番はギルドカードに書かれている名前と番号を記帳して、中へと通してくれた。  因みに何故かディルクもウルもギルドカードを持っていた。不思議そうに見ていると 「ちゃんとした物だぞ?」 って言われてしまった。偽造とか疑ったわけじゃないのにな。  とにかく問題なく入れて良かった。  街並みを見ると面影はあるけれど、前よりすごく賑わっているように思う。食堂や酒場も増えていたけど、武器屋や防具屋、魔道具を売ってる店も見える所だけでもいくつもあった。    私たちは近くにあった食堂へ入った。ここは前は『風見鶏の店』という店だったけれど、名前は『烈火の闘牛亭』という、なんとも勇ましい名前に変わっていた。  けど、店内の雰囲気はそんなに勇ましい感じではなくて、普通に賑やかな街の食堂って感じだった。  内装は変わっていたけど、配置とかがそのまんまで、何だか懐かしさを感じる。  昼食には遅めな時間だったけれど客は思ったよりいてて、昼間っから酒を飲みまくっている冒険者パーティーと思われる人達もいた。 「アシュリー、久し振りだったから疲れだだろう? 大丈夫か?」 「うん、少し疲れたけど大丈夫だ! やっぱり外はいいな。空気が美味しく感じる!」 「あたしも久々の外出やから楽しいわー! ずっと帝城の中やねんで? いくら広いって言っても、ええ加減飽きるっちゅーねん」 「ウルもディルクも、私に付き合ってくれてありがとう。思ったより時間が掛かっちゃって……ごめん……」 「もう! そんなん良いっていうてるやん! あ、食事が終わったら雑貨屋に行けへん? 見たいやつあんねん!」 「あ、うん、行きたい! 行こう!」  そんなふうに次に行く場所なんかを話していると、頼んだ食事が運ばれて来た。それを3人で食べている時、不意に『聖女』という言葉が耳に入ってきた。  今は『聖女』でなくても、多くはないけれど回復魔法を使える人はいるし、この国はオルギアン帝国の属国だから、回復魔法を取得する方法を知っている国なんだ。  昔は回復魔法は『聖女』しか使えないとされていたから、その能力があると分かった時点で強制的に捕らえられ、国の所有物とされていたのだ。  今はそんな事はない筈なのに……?  そう思って、『聖女』と言った人の方へ自然と向いてしまう。これにはディルクもウルも気になったようで、三人供が同じ方向を向いた。  そこには四人組の冒険者風の男達がいて、酒を酌み交わしながら話していた。   「いや、マジ可愛いんだって! あれは『聖女』を通り越して、もう『女神』だね! 俺、拝みたくなったもん!」 「あそこは前は男がいたろ? ソイツもすっげぇ美形だったけどな。ソイツの代わりに来た子が、お前の言う可愛い可愛い『聖女様』なのか?」 「そうだと思うぜ! そういや、前にいた奴と感じは似てたな……俺、神とか信じねぇけど、お布施してこようかな……」 「調子良い奴だなぁ! けどそんなに言うなら見てみたいな。後で行くか!?」 「いや、教会に仕えている子だぜ? 酒を飲んだ後には行けねぇだろ?」 「案外真面目だな、お前。けど『聖女』って言われる程に凄い回復魔法の使い手だったのか?」 「それはすげぇぞ?! 無くした足が生えてきたってんだからよ!」 「マジか?! そんなの、聞いたことねぇよ!」 「それが本当なら、それこそ『聖女様』だな……」  この街にそんなに凄い回復魔法を使える人がいるんだな……そんなふうに思いながら聞いていたら、その男達の一人と目が合った。  男は私を見ると、あれ?って言う顔をする。それから席を立って、私の方へやって来た。それを見てディルクは警戒を強めたみたいだ。   「なぁ、アンタ、あの孤児院にいた奴だよなぁ?」 「え?」 「なぁ、アンタと今孤児院にいる『聖女様』って、兄妹なのか?」 「あ、いや、私はその……」 「人違いだ」 「え? 嘘だろ? アンタだったって! そんなキレイな顔してる奴、あちこちにいる訳ねぇじゃねぇか!」 「人違いと言っている……!」 「わ、分かったよ……んな睨むなよ……」  ディルクが威圧を放つと、男はオズオズと自分の席へ頭を傾げながら戻って行った。    その孤児院にいた男って、そんなに私には似ていたのかな? 勿論それは私ではない。けど……    なんか気になる……  
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